労働者性に関する一般的な基準
さて、前回記事まで、論評してきた、嘉納英樹・加藤新太郎「弁護士が知っておきたい企業人事労務のリアル」は読み切ってしまったので、次は岡芹健夫弁護士の「労働法実務 使用者側の実践知」を読んで労働者側弁護士の視点からコメントしていきたいと思います。
さて、労働者か否かというのは時々問題となります。労働者であれば(雇用契約であれば)、自由に契約の解除(つまり解雇)はできませんが、委任契約や請負契約、業務委託契約の相手である独立した事業者であれば、解約は基本的に自由です。そのため、主として契約の解除(解雇)の場面で労働者か否かがしばしば問題となります。
この点、同書では①仕事の諾否の自由、②指揮命令の有無(強弱)、③勤務時間・場所の拘束性、④業務遂行についての他社への代替性(独立した事業者であれば、さらに下請け業者に任せるのも基本自由)⑤給与所得としての源泉徴収、社会保険の加入の有無といった事情を総合較量して決めるものであるとしています。
契約の目的の性質の要請である???
ここまでは、大概の労働法関係の書籍にはどこでも書いてある、特段目新しさもない内容ですが、同書ではさらにNHK西東京営業センター事件判決(東京高判平成15年8月27日労判868号75頁)や朝日新聞社事件判決(東京高判平成19年11月29日労判951号31頁)を紹介して、労務を提供する側が指示を受けざるを得ない関係にありながらも、「それは労働契約上の指揮命令というよりは、問題となっている契約の目的の性質からの要請であることが散見される(中略)(前記の朝日新聞社事件判決は)指示があることをもって職務の従属性が決せられるものではないと説示している。従って、労働契約性の判断において問題となった契約の内容、性質を重々理解することが、特に労働契約制を否定する場合、極めて重要」と述べている。
上記のような判旨の裁判例は労働者性を否定した判決では散見されるので、使用者側の立場だと、このような主張を行っていくことになるという意味で、この記載に対する感想は「そうなるよね」、というものです。もっとも、前記のNHKの集金人や朝日新聞社の事件の判決については、率直にいって何を言っているのか分からないというのが私の感想です。
指揮命令を受けるか、どこまで受けるかは、雇用契約であろうとなかろうと、業務の性質で決まるものです。人を雇う側からすれば(私も人を雇っている雇用主ですが)、一々細かく管理するなどという余計な仕事は面倒なのでしたくないのであり、業務の必要性がないのに、細々口出しをするということは普通考え難いです。業務上の必要性があるから、指揮命令をするのであり、雇用契約だから指揮命令をする、雇用契約でないから指揮命令をしていないのだということではなく、契約の性質がなんであろうとあくまで業務の性質から必要があるから指揮命令するのです。
つまり、例えば、電話番のアルバイトは当然労働者ですが、時間的・場所的に拘束されるのは、雇用契約だからではなく、業務の性質上、電話番は指定された時間場所で待機してくれなきゃ仕事にならないからであって、雇用契約だからではありません。上記の論理に従えば、電話番のアルバイトですら、業務の性質上必要だから指揮命令を受けているにすぎず、労働者じゃないということになりかねません。
業務の性質上の必要性がある範囲で指揮命令をうけるのは明らかに雇用契約である電話番のような業務でも一緒なのですから、業務の性質上必要だから指揮命令を受けているにすぎず雇用契約でないというNHKや朝日新聞社の事案での判決は、労働者性を否定する説明になっていないように感じます。
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このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。