まず、始めに私は今回の件について、報道以外の情報はないため、あくまで報道で聞いた範囲の事情を前提としたコメントであり、すべての事情を把握した上で述べているものではないという限界があることをご理解ください。また、ロイヤルリムジンの件に限らず、労働問題のご相談は随時受け付けております。

結論 ロイヤルリムジンの整理解雇は違法無効となる可能性が極めて高いし、社長の従業員の不利益を回避するために解雇したとの説明内容は極めて不正確

まず、報道されている限りでは突然解雇したようですが、具体的な経営状況の説明(売り上げの減少については報道されていますし従業員にもやっているでしょうが、会社の財務状況や整理解雇をしなかった場合どうなるかのシュミレーションをやっていないのではないでしょうか?)や、整理解雇をする前に退職勧奨等をやっていないようです。

今回は、経済事情の急変による経営悪化ですから、当然雇用調整助成金を得ることもできたでしょうから雇用調整助成金の受給することも踏まえて、解雇せざるを得ないといえなければなりませんが、そこまでの事情があったようには思えません。

なお、雇用調整助成金は解雇を行わない場合であれば中小企業であれば90%、大企業であっても75%です。

ここが、誤解が多いポイントようなのですが、雇用調整助成金は休業補償に対して出ますが、休業補償について労働基準法は平均賃金の60%以上としなければならないとしているだけで、60%以上を支給することは雇用調整助成金との関係でも特に問題となりません。労使協定で休業補償を平均賃金の100%と定めることは何の問題もありません(100%を超えるのはもちろん無理ですが)。

そして、平均賃金とは、直近3か月の給料を日数で割ったものです(4月時点での平均賃金は1月から3月の給料を足して、91日で割った金額(31日+29日+31日=91日))。平均賃金は固定給だけでなく、支給されたもの全部で残業代や歩合給、家族手当、住宅手当などの福利厚生的な手当てはもちろん、通勤費等の実費的な面がある手当も含まれます。

したがって、休業補償を平均賃金の100%支給すると定めれば、労働者は歩合等も含めた賃金を従前どおりもらえますし、会社の負担は従前の給料の10~25%(6割支給とすれば6~15%、ただし、助成金の金額は1日8330円が上限となります。)です。もちろん、売り上げが激減した中でそれすら支払えないという状況もあり得ますが、少なくとも希望退職も募らずにいきなり全員解雇というのはあまりに性急すぎたといえると思います。

なお、厚生労働省が緊急事態宣言をだした場合には60%の賃金の支払いすら不要になるとほのめかす発言をしていますが、過去の最高裁判例を見る限り、労働基準法の60%の支払いを不要と認めたのはほぼ絶無に近く、また旅客運送業の経営が悪化するイベントは数年ごとに発生していること(リーマンショック、東日本大震災、SARS)も考慮すると、60%は当然支払うべきですし、裁判を行った場合100%の請求が認められる可能性は十分あります。

失業給付の方が有利というのは不正確

失業給付は年齢、雇用保険の加入期間、平均賃金の金額によって決まりますが、従前の給料の5~6割のことがほとんどです。

ちなみに、50代、勤続5年未満、月30万(半年で180万円、1日1万円)の場合は日額5954円となり6割を切りますし、月額で18万前後となります。

失業給付の額については自動計算はこちら

失業給付だと所得税はかかりませんが、これまで半額会社負担だった社会保険料は全額負担になりますので、租税負担は決して軽くはありません。

また、解雇が無効であれば、賃金全額の支給を求めることができます。

失業給付は貰えるのか

この件のニュースでは、失業給付が貰えるのかという指摘がありますが、結論的には貰えると思います。

失業給付は、単に一時的に自宅待機しているのであればもらえませんが、本件は解雇されており、会社は市場環境が回復したら再度雇いたいとは言っていますが、何時誰を戻すのか具体的なことは全く言っていないからです。恐らく会社側の言っていることは全くの嘘ではないでしょう。ドライバーに売り上げを挙げてもらわなければ会社が利益を上げることもできませんから、戻ってきてほしい人は声を掛けるつもりでしょう。しかし、市場環境が何時戻るかは全く分かりませんし、全員を戻すというわけでもないからです。当然、会社に従順で成績も問題ない者から戻すでしょうし、気に入らない人間は戻さないということでしょうから、会社としては何の責任もないし、労働者としても何の保障もないという状況ですから、真面目に求職活動をしているという要件を満たしているという前提であれば、失業給付が下りないということは考え難いと思います。

もっとも、上記の説明を聞いて、会社は労働者のことを考えていると思えますか?

歩合給でも最低賃金を切ることはできません

また、歩合給だから雇い続けても収入は激減すると主張していますが、最低賃金の保障は当然及びますので、所定労働時間が160時間強だとすると17万前後は最低でも支給されることになりますし、売り上げがあれば、当然それに歩合給が加算されることになります。

なお、完全歩合給については、先日の国際自動車事件の最高裁判決で無効とされています。ロイヤルリムジンの場合給料制度の詳細はわかりませんが、残業代の不払いがないかも弁護士に相談されることを強くお勧めします

 

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解雇・退職勧奨

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。