Aさんは、有名大学の大学院卒業後、エンジニアとして外資系のメーカーを中心に複数社で働いていた方(女性)でした。

Aさんは子供3人の養育を主として担当していたところ、コロナの最初の緊急事態宣言の関係で幼稚園、小学校が休校となり、またAさんも在宅勤務となりました。
しかし、幼稚園等が閉鎖され体力を持て余した幼児や小学校低学年の子供が騒いでいる状況で仕事ができるわけもなく、昼間は子供の面倒を見て、子供たちが寝静まった夜中に仕事をするという状態となり、睡眠時間がろくに確保できない状況となりました。その結果、気分の落ち込み等の症状が出たため、近所の精神科に通院しいったん休職することになりました。

幸いなことに、Aさんの体調は、休職し夜中に仕事を余儀なくされる状況から解放され、普通に夜眠れるようになったことで、すぐに回復し、1月もたたないうちに症状はほぼ消えました。また、幼稚園や学校が再開されたことで、今後の家事と仕事の両立の環境も整いました。そこで、Aさんは、症状が消失した後1か月ほど大事を取って様子を見た上で、主治医の診断書を添えて、復職を願い出ました。

ところが、会社側はAさんが働けるかわからないからとして、無期限で無給で出勤するよう命じられました。Aさんが抗議すると、無給という条件は撤回されましたが、これまでAさんが認められていたフレックス勤務制を廃止し(子供3人の世話を主として行っており、急な呼び出しなどもある、Aさんとしては死活問題でした。)、ほかの従業員が認められている(Aさんの勤務先のビルの他のテナントでは陽性者が出たという連絡が来ている状況でした。)在宅勤務も認めないといわれました。

Aさんが、怒って、こんな条件だったら退職すると伝えて、「ドラフトです」と明記した上で、退職願いをPDF添付で人事担当者に送り付けました。Aさんは翌日には冷静になり、ドラフトであるが念のため撤回するとメールで伝えたのですが、数日後退職を受理したとして、Aさんを勝手に退職扱いにしてしまいました。

合意退職は労働者の生活に重大な影響を与えるため、口頭での合意はよほどの事情(退職すると述べて、その後連絡が全くつかない状況が半年以上続いたなど)がない限り認められません。本件では、ドラフトであると明記している以上、最終的な退職の合意が認められる余地がないことは明らかな事案でした。また、前期の通り、症状が完全に消失し安定している状況であるため、復職可能であることもかなり明白と言える事案でした。

そこで、対応をの相談を受けた私が代理人として、退職合意がないので復職を希望する旨、どうしても退職ということであれば相応の解決金を支払うようにと文書で通知しました。
当初会社の代理人からは、積極的に争わないので、和解案を提案をしてほしいとのことであったため、固定賞与込みの給料1年分を提示したところ、当初の代理人は解任され、別の代理人から全面的に争うとの返事がありました。

やむを得ず、訴訟提起したところ、当然ながら会社側はまともな反論もできず、裁判所も会社側を説得するというワンサイドゲームとなり、半年ほどで、私が当初提示していた金額(1年分)を相当程度上回る金額で和解となりました。

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このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。