私は労働者側の弁護士として日々活動していますが、他方で、一人だけとはいえ従業員を雇っており、使用者でもあるという、よくよく考えると矛盾した立場にあります。

零細使用者であり労働弁護士として日々感じるのは日本の法制度や裁判実務が悪徳経営者が得をし、正直者の経営者が損をするように作られているということです。

たとえば残業代の問題では、残業代の時効が2年間です。現実的に働きながら残業代の請求をするというのは相当困難ですので、通常は退職直前の2年間を請求するということになります(残業代の請求を退職後ただちに行わなかった場合には、時効で毎月消えてしまいますので、請求できる期間はもっと短くなります。)。

また、残業代の請求で一番苦労するところが、労働時間の立証です。本来であれば、使用者に労働時間の把握義務があるにもかかわらず、この義務を誠実に履行していない使用者は、あとを絶ちません。その場合、あくまで労働時間の立証責任は請求をしている労働者にありますので、タイムカード等の労働時間の証拠がないと、労働時間の立証ができていないとして残業代の請求を逃れることが可能になっています。

パワハラでやめざるを得なくなったとしても、暴行などの犯罪にあたるような行為でもほとんどの場合、数十万円の慰謝料が認められてそれでおしまいです。辞めざるを得なかったというところは、現在の裁判所では損害として認められていません。使用者はたった数十万円で労働者を追い出すことに成功しますが、労働者は仮に訴訟に勝ったとしても職探しをしている間の生活費としてすぐになくなってしまい、焼け石に水となってしまいます。リストラ部屋の問題がありますが、そのようなところに入れて数か月給料を払い続けるくらいなら、慰謝料を払う前提でヤクザでも雇って脅し続けた方が安上がりということになりかねないのです。

※念のため、申し上げますが、私は決して、そのような手段を推奨しているわけではありませんが、これが使い物にならない日本の裁判所の現状なのです。

裁判所は、やったもん勝ちになっている実情をもっと直視して、真の救済を行うべきです。司法制度改革と言われていますが、一番改革すべきは市民の権利救済という役割を放棄し、使い物にならない裁判所です。

また、若干裁判所の限界を超えているところもありますが、残業代の問題については、残業管理をしない悪質な使用者に重大なペナルティを課すことが法制度上も必要です。

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。