ライフワークバランス向上のために、残業代不要?

時間と賃金の関係を断ち成果に応じて賃金を支払うことでライフワークバランスの向上が図れると経済産業省は言っています。

しかし、合法か否かはともかくとして、現実として、時間と賃金の関係が断ち切られた給料体制を強いている会社は今でもまったく珍しくありません。 例えば、給料の一部を固定残業代を支払って、いくら働いてもそれ以上は一文も支払わないなんて会社はよくあります。また、一定時間以上の残業の申請は実際に残業していても認めないなどと述べて、虚偽の日報を作成させたり、タイムカードを打刻させてから働かせたり、サービス残業を強いられる会社など珍しくもありません。その他、営業職だからという理由で支払わないというケースもあります。事業場外みなし制度という制度もありますが、これは職務の性質上どうやっても労働時間を管理することができないという場合に標準的な労働時間を労使で合意してその時間働いたとみなすというものですが、これも判例上要件が厳しいのでほぼ確実に違法になりますが、違法なのを知ってるのか知らないのかよくわかりませんが、これもよくあるパターンです。さらに、IT技術職だからというパターンもありますが、これもよほど上流工程のSEでなければ違法で、プログラマーは違法なのですが、広く流布されています。

私は過労死や精神疾患の労災申請と損害賠償を中心的な取り扱い分野として長年弁護士をしてきました。私が関わった事例で、タイムカードなどで、きっちり時間を管理した上で、残業代をしっかり全額支払っている会社なんてほとんどありません。正確に言うと0ではありませんが、労働時間は争いがなく、しっかりと残業代が全額支払われていますですという事案は、残業代は概ね支払われている(例えば、休憩が15分くらいしか取れていないとか、たまに持ち帰り残業をしていたなど若干の漏れはあるが出退勤時刻はきっちり管理されている事案など)という事案に広げても1割程度で、長時間労働の問題がある会社のほとんどは未払い残業代の問題があります。

労使が対等でないなかで、どちらに残業代によるペナルティを与えるべきでしょうか?

労働者と会社は現実的に対等ではありません。会社が指揮命令する立場なわけですから、会社が残業代をきっちり支払わなければならないという前提があれば、残業は減らすインセンティブが働きます。一方で、残業代を払わなくてよいのであれば、労働時間を減らそうというインセンティブはほとんどなくなります。もちろん、残業代が支払われれば、長時間労働をしてでも稼ぎたいという人も中には出てくるかもしれませんが(生活時間が確実に圧迫されますから、積極的に長時間労働を望む労働者は一部に限られるでしょう。)、先ほどのべたように、労働者は指揮命令を受ける立場なのですから、残業代を支払わない場合とどちらがより労働時間削減に効果的かは議論するまでもありません。

過労死が起きているのは、残業代不払いの会社です。

現に過労死問題を起こしているのは、時間と賃金の関係が断ち切られている会社なのです。 今の法改正の議論は日本全体をブラック化するものです。

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このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。