過労死弁護団東京支部の例会に参加し、発症時期の考え方について勉強しました。

労災分野特に、過重労働による脳心臓疾患や精神疾患による障害や過労死、過労自殺問題の専門家集団である過労死弁護団の例会に参加しました。

今回は精神科医を呼んで、体調悪化する前に精神科の受診履歴があるが、死亡直前に過重労働となり、体調が悪化し、自殺したという事案について検討しました。

秋山医師は、単に不眠や多少不安があるというだけでは精神疾患にり患しているとまでは言えないが、自殺したということ自体に加えて、その他の診断基準に合致する症状があるなら、直前の時期にうつ病を発症したといえるのではなかろうかと述べていたのが印象的でした。

労災申請にあたり、発症時期についての見解に相違がある事案も、いちどご相談ください。

労災の審査では、発症直前6か月が原則的な審査期間です。つまり、発症理由となった出来事が、発症後の出来事であるとか、発症より6か月以上前の出来事であると判断されてしまうと、過酷な労働を行っていた事実が客観的に明らかな事案であっても、審査対象の期間外の出来事であるとして一切考慮してもらえないということになります。

発症後の出来事について基本的に考慮しないという労災の認定基準の考え方については、批判があるだけでなく、裁判例でも不合理だとして、発症後の出来事も含めて評価した事例もあります。しかし、労働基準監督署は裁判所が何と言おうと厚生労働省の出した通達通りで現場の運用を行います。そのため、労働基準監督署の段階での、つまり行政裁判になるなどこじれる前の早期の解決のためにも、現在の認定基準が発症直前6か月しか考慮しないというものであることを前提に対処する必要があります。労働基準監督署への労災申請にあたっては精神疾患の発症基準について、足元をすくわれないように、単に業務上過酷な出来事があったということだけに立証を尽くすのではなく、いつ発症したかを含めて、あらかじめ準備する必要があります。また、これまでの経緯を良く知っている主治医の協力が得られるのが一番ではありますが、治療以外のことについて協力するのは多忙であるため消極的な医師が少なくないため、主治医以外の協力してもらえる医師を確保していれば、有利な解決が望める確率が高くなります。

過労死弁護団では、時々、医師を呼んでの勉強と懇親を行って、いざというときに備えています。加えて、当職は事件の関係で知り合った複数の医師と、一緒に本人の為に意見書の作成など共同する中で協力的な体制を築いておりますので、発症時期についての見解の相違がある事案でも、可能な限りの体制で反論できるようにしております。

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。