社会人として働き始めたとき、本当に血を吐く思いをして働きました。
誰でも一年目、二年目はつらいだろうけど、弁護士業界は特に即戦力を求める傾向が強いし、自分は決して器用な人間じゃなく、本当に辛かった。新人であっても取り扱う事件は人の一生を左右する事件を処理しなければならないし、一年目だからと言ってそのことはベテランと変わりがない。しかも、弁護士としての職務はもちろんそれ以前の事務処理の一つ一つが慣れない作業ばかりで一々試行錯誤しなければならないという状態でしたので、上司に叱責されることも度々という日々が続いていました。

そんな状況で働き始めて実感したのが、

世の中の普通のことって、普通の人の普通じゃない努力の上に成り立っているんだということ

法律相談に来る人で、時々いるのが、法律はどうなっていますか?どのくらいが相場ですか?と結論だけしきりに聞いてくる人です(労災などの労働問題の相談者ではそれほど多くありませんが、家事事件などではその点だけ繰り返し質問されることはあるある話です。)。
法律がどうなっているのかというのは重要ではありますが、現実はその点の知識があるだけでどうにかなるわけではありません。

法律というのは平たく言えば、世の中の普通ということですが、それは必ずしも天から降ってくるものじゃなくて、普通を守るためにはしばしば普通じゃない努力が必要なのです。それは、仮に相談者に全く落ち度がなかったとしても、しばしば生じることなのです。

具体的には、弁護士の実務を進める上では、権利関係がどうなっているのかについての法的知識だけでは不十分で、訴訟手続きの細かなルールや証拠の収集のノウハウや評価のやり方など訴訟を遂行する膨大なノウハウが必要となります(逆に言うと、だから、我々の商売が成り立つ訳です。)。

もちろん、まだ人間関係が決定的に壊れていなかったり、利害対立がはっきりしていない段階では法律(権利関係の内容を定める実体法)の知識だけあれば、後は本人同士の話し合いで解決できることもたくさんあります。だけど、個人の相談者が見ず知らずの弁護士に相談に来るというのはそういうレベルじゃないことが多いのです。法律の結論だけ聞きたがる人にお会いすると、わかってないなあと感じます。

法律の知識は重要ですが、法律をどうやって守らせるかというのもおなじくらい重要ということ、そして、そのためにはしばしば多大な労力がかかるということを理解してほしいなと思います。

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。