ディファードボーナスとは

ディファ―ドボーナス(Deferred Bonus デファード賞与、リテンションボーナスともいいます。)とは、賞与の一部を分割し、残額を次回以降に支給するというものです。

これは、金融関係や不動産営業など業績に応じた賞与の占める割合が高い業種において、冒険的な取引やときには架空の注文を作出して、短期的に表面上利益を計上し、却って長期的に会社に損害を与えるような取引をし、実態を考えると不当に高額なボーナスをに受給するのを防ぐために設けられた制度です。

この制度は税法上いつ課税されるのかという問題はありますが、一定の合理性がある制度であり、雇用契約や就業規則で契約内容となっていれば労働法制上原則として違法とは言えません。

ディファ―ドボーナスの退職後の不支給は違法です

しかし、ディファ―ドボーナスを導入している企業では、退職後には積み立てられたディファ―ドボーナスを退職した場合には支給しないという条項を退職を防ぐ目的で就業規則などに入れています。

しかし、これは、退職を理由とした不利益扱いです。退職を理由とした不利益扱いは、過去にこれが悪用され、タコ部屋労働者、娼婦などに対する人権侵害が多発したという過去の教訓から、退職による不利益取り扱いは労基法5条により禁止されています。

また、労基法は、違約金条項(具体的な損害がないのに特定の事項に罰金などのペナルティを定める行為)が労働者の自由や利益を不当に制限してきた経緯から、16条で「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定めています。ディファ―ドボーナスは既に金額が確定したボーナスを退職を理由として不支給とするものですので、同条に違反しています。

また、労基法24条は給料の全額支払いを定めています。これは、法律で認められているもの(税金や社会保険料等)以外は使用者は控除してはいけないというものです。例えば、業務上のミスにより会社に損害が発生した場合、解雇や降格で調整することは認められますが、給料を天引きするということは違法になります。退職後の不支給は24条に違反し無効です。

大和銀行事件の最高裁判決は本件とは無関係です

なお、この点について支給日に在籍していない従業員への不支給を適法とした判例(大和銀行事件最一判昭和57年10月7日)がありますが、これは未だ発生していない賞与に関するものですので、ディファードボーナスとは異なる事案であり、確定したボーナスを不支給にする多くの企業で行われているディファードボーナスの退職後不支給は違法です。

退職後も請求可能です

退職金を除く給料の時効は2年であり(ただし、3年に延長される予定です。)、賞与も時効は2年です。そして、時効の起算点は支給時期ですので、ディファ―ドボーナスの場合は次期以降の賞与支給時期に支給予定額について各支給額が2年間経過すると時効消滅するということになります。つまり、退職した翌年の7月に支給される予定の3年後の7月まで請求可能ということになります。

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。