判例雑誌への掲載の重要事件を担当

当事務所では、労災以外の残業代や解雇などの労働問題全般を広く取り扱っており、労働判例1087号56頁(労働関係専門誌としては最も有名な判例雑誌である)に私が取り扱った残業代請求事件が掲載されました。

本件の事案の概要

本件は,テレビのロケバスの運転手について,撮影中の待ち時間の取り扱いが中心的な争点となりました。待ち時間の認定についてその大半を労働時間として認めており、基本的には勝訴と理解はしているものの、具体的な根拠なく一定時間を休憩時間として差し引いており,100%満足のいく結論ではありませんでしたが(なお,控訴審で1審をかなり上回る水準で和解しました。),待ち時間の点は当該事例の事実認定の問題に過ぎません。

実務上重要な点は100キロ超の走行をした場合の走行キロ数に比例した手当てが基本給などと同じ計算方法で残業代計算の基礎単価に含まれるとした点です。

相手方は100キロ手当は歩合給だから、残業代の計算に際してほとんど考慮しなくてよいと反論していましたが、裁判所は、相手方の主張を排斥しました。

歩合給に当たるか否かで残業代の金額は全く変わってしまいます

行政の通達では歩合給も残業代の対象になりますが,通常残業代125パーセントのうち100パーセント部分は歩合給に含まれており支払い済みとなるとされています(ただし,歩合給の取り扱いについての行政の見解についてそもそも議論があります。)。

つまり、所定労働時間160時間で残業40時間、計200時間働いて、歩合給が2万円支給されたとしますと、通常の残業代の計算方法ですと

2万円÷160時間×1.25=156,25円 

これが残業代の単価になりますが、これが歩合給だと認められてしまいますと

2万円÷200時間×0.25=25円

歩合給部分で100%は支払い済みと扱われるので、大幅に金額が安くなってしまうのです。

歩合給にあたるかで,金額が大きく変わってきます。 現在,成果に応じた給料の支払いを目指す方向での労働法制の改悪が政府により目指されています。

当方はロケバスの場合走行距離は遠方でロケをしたか,近場でロケをしたかで決まるものであり(12時間以上拘束されていても、ほとんど待機していて走行距離が短かいことは珍しくありませんし、海岸とか河原などの屋外でのロケ地の下見で遠方に行った場合など、走行距離は長いものの待機時間があまりない場合は、短時間でも長距離を走行することもある。),労働時間と比例して伸びるというものではないことから,いわゆる歩合給ではないと主張し、裁判所も当方の主張を認めました。

成果がでるか否かは様々な事情により決まるものであり,必ずしも労働者の側の努力でなんとかなるものではないため労働者の努力が評価されないという問題がありますし,労働時間の歯止めをつけにくいという問題もあります。

歩合給をめぐる取り扱いの判例が流動的な状況で,歩合給を限定するいい先例を作れたと考えています。

また本件は,就業規則がなく,所定労働時間の定めもない事案での計算方法を明らかにしたという技術的な点について参考になる事案です。

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。