労災認定後の損害賠償請求で、仮払い仮処分を利用してスピード和解が成立しました

昨日、長時間労働及びパワハラにより、就労不能となっていた方の給料仮払い仮処分の事件で、和解が成立しました。闘病期間がそれ程長くない状況でしたが、労災給付とは別に年収分以上の解決金を支払う内容で和解成立となりました。

仮払い仮処分を利用したため、申立後数か月でのスピード解決となりました。

精神疾患の労災の損害は、大きく分けて、休業損害と慰謝料に分かれます。慰謝料は交通事故の事案では通院期間と入院日数で細かく相場が決まっており、通院の場合1年間で100万円強となり、その後は通院期間が延びてもほとんど増えないということになっています。精神疾患の労災の場合は治療期間が延びた場合もう少し増えるのが通常ですが、それでも5~10年働けずに治療を続けても数百万円のことが多いため、損害の中心は休業損害となります。

早期に和解してしまうと、損害額が確定する前に和解することになりますから、将来分も多少含まれるとは言え金額が低くなりがちです。ですから、私の基本方針は、あまり焦らず時間をかけてきっちり審理して、損害を認定してもらえる訴訟が基本的な方針です。もっとも、早期に働ける状況まで回復しそうだということであれば、将来分も含まれる内容で和解するため、場合によっては再就職した給料と二重取りができることもありますし、さっさと和解して、次の職場で頑張るというのが賢い選択ということになります。本件では、ご本人にどちらがいいか確認したところ、病気の回復傾向がみられるので、病気が長引くリスクを負っても早期に解決したいとのことで、仮払いの仮処分を申し立てました。

仮払い仮処分のメリット・デメリット

仮払いの仮処分メリットは、多数回期日が開かれますので、労働審判の様に3回までと期日の回数が限定され、実質的な審理は1回で終わらせてしまう労働審判では、労災のような複雑な事件ではどうしても限界がありますが、仮払い仮処分であれば、このような複雑な事案でも十分対応できます。また、仮払い仮処分は基本的には半年程度で終わらせることを目標としています。過労性疾患の労災の上乗せ補償の訴訟は数年かかることが通常であるため、訴訟と比べると相当早期の解決が期待できます。

一方デメリットは、仮払いは給料を仮払いしないと生活が立ちいかなくなるという事情(保全の必要性)が必要であり、最低限生活を成り立たせるのに必要な金額しか認められないという限界があります。そのため、仮に権利自体は認められても保全の必要性が認められないということで、棄却されてしまう恐れがあります。

もっとも、最初から和解を目指すということであれば、仮に保全の必要性が認められないということで勝っても会社側は最終的な解決にならないわけですから、あまり意味がありません。そのため、裁判所の心証をもとに和解をする動機は十分あり、実際仮払いの仮処分でも他の手続きと同様和解で終結することが少なくありません。そのため、決定を貰うことが前提でなく和解を目指すのであれば、保全の必要性の制限というのは左程気にせず、積極的に利用すればいいとの方針で申し立てを行っています。

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このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。