Q 私は、5年前に家族間のトラブルが原因で精神疾患になり、働きながら通院していました。病状は落ち着いており、会社に精神疾患で行けないという状況ではなかったのですが、1年前に業務上の負荷が重なり、病状が悪化し、就労不可能となり、昨年から休職しています。私が働けなくなったのは1年前の業務上の負担が重くなったためですので、労災と認定して欲しいのですが、いかがでしょうか?
A 労災の認定基準では、発症前6か月間を審査の対象としますので、発症後のストレスは基本的に考慮されません。発症後は、軽微なストレスでも病状が悪化することがあるため、病状が悪化するのは、業務上のストレスとは関係ないという考え方です。
ただし、例外もあり、厚生労働省の労災の認定基準では発症後に,「特別な出来事」に該当する出来事があり,その後6ヶ月以内に自然経過を超えて精神障害が悪化した場合には,発症後の出来事であっても考慮されるとされています。 「特別な出来事」とは,生死にかかわる業務上の怪我,強姦など本人の意志を制圧してのセクシャルハラスメント,時間外労働が1ヶ月160時間を越える労働などをいいます。
また,発症前6ヶ月より以前であったとしても,いじめやセクハラが継続的に行われている場合には,一連の行為として評価すべきであり,全体を考慮するとされています。 従って,発症前6ヶ月以内ではないからといって一概にあきらめる必要はありません。
さらにいえば,そもそも,本当に発症前6ヶ月以内ではないのか,つまり発症時期が何時かという点も再検討すべきでしょう。ご相談の事例では、通院や服薬は続けていたようですが、仕事に支障をきたすという状況ではなかったようですので、既に回復していたという可能性もあり得ます。主治医の先生に協力してもらえないか相談してみるのも一つの方法です。
また,発症前6ヶ月以内というのは,行政段階の基準に過ぎません。脳心臓疾患の事案ではありますが,最判平成12.7.17は1年半ほど前の事情も考慮していますし,発症後の事情や発症日から6ヶ月より以前の事案も積極的に主張すべきです。
そもそも、発症前ですら病気になる強いストレスにさらされたのであれば、既に病気にかかっている人間ならより強い影響を受けるはずであり、認定基準が妥当かは強い批判があります。
そのため、発症後の行政段階では特別な出来事がなければ可能性は高くありませんが、行政訴訟の判決であれば、発症前の出来事と同様に「強」と認められれば救済した判決は複数ありますので、最初から諦める必要はありません。
→生活費確保についてお悩みの方はこちらもご覧ください
《関連記事》
発症から医療機関の受診まで期間があいている場合の発症日とは?
→労災申請・損害賠償請求をお考えの方はこちらもご覧ください
このコラムの監修者
-
増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。