Q 私は以前から仕事が忙しい時などに眠れないことがあり、3年位前から年に1、2度精神科に通院して睡眠薬を貰っていました。また、仕事が忙しかったり、トラブルがあったときは、眠れないだけでなく、気分が落ち込んだりといったこともありましたが、眠れない日だけ睡眠薬を飲んでいたのであり何時も飲んでいたわけではなく、また気分の落ち込みもずっと続いていたわけでありませんでした。ところが、昨年の4月ころからは不眠や気分の落ち込みなどの症状がずっと続く状態になって、定期的に通院するようになったのですが、私の発症時期はいつになるのでしょうか?
Qにあるように軽微な症状が以前からあった場合や、症状がでたのは仕事が忙しい時期の直後であるが,精神科に受診したのが,大分たってからだという方や,自殺の場合,精神科でうつ病などに罹患しているとの診断を受けずになくなっている場合もあります。その場合,何時が発症日となるかが問題となります。
精神疾患の労災の認定基準は「 対象疾病の発病の有無、発病時期及び疾患名は、「ICD-10 精神および 行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン」(以下「診断ガイドライン」という。) に基づき、主治医の意見書や診療録等の関係資料、請求人や関係者からの聴取内 容、その他の情報から得られた認定事実により、医学的に判断される。特に発病 時期については特定が難しい場合があるが、そのような場合にもできる限り時期 の範囲を絞り込んだ医学意見を求め判断する。」と記載していますので、ICD-10に基づいて,発症しているか,及び何時発症したのかを判断します。
従って,うつ病の事案であれば、気分の落ち込み,興味の喪失,疲労感,食欲の減退,集中力の低下,睡眠障害,自己評価の低下,希死念慮といったうつ病のエピソードがいつ現れるかということを証拠に基づいて,判断することになります。ご相談の事例では、症状がうつ病の基準をクリアするほど揃っていたわけではありませんし、症状が持続しているわけでもありませんので、3年前に発症となる可能性は低いでしょう。ただし、3年前から発症していると誤解されないように、申請前から主治医に意見書の内容などについて誤解を招くような記載をしないよう根回しをしておく必要があります。
発症時期については,その性質上,客観的証拠を集めるのが困難なものであるため,本人や周囲の方述などによって,発症時期を特定することが一般的です。 従って,精神科を受診したのが,仕事が忙しい時期より相当期間経過していたとしても,あなたの供述などに基づいて発症時期を特定する事は十分認められる可能性があります。 一方で,既に受診してしまっている場合に発症時期を後ろ倒ししてもらうのは,カルテなどの取り寄せを労基署は行うので困難です。
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このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。