Q 私は、大きなプロジェクトの責任者になったのですが、トラブルが発生し、未経験の分野で会社の支援もろくにない中で、何をどうしていいのか分からない中で、連日深夜まで考えられる手段を手当たり次第に試して何とかプロジェクトを成功させました。プロジェクトが一番大変だった昨年の夏あたりから、不眠や抑うつ、食欲低下などの体調不良が既にあったのですが、目の前の仕事をこなすことに集中していて、自分の体調を気遣う余裕がなかったこと、そもそも通院する時間がなかったことから、精神科医に通院するようになったのは今年の春になってからです。昨年の年末以降は仕事はひと段落していたので初診日を基準とすると直前の時期は特別過重労働というわけではありませんが、労災と認められるのでしょうか?
A 労災保険の審査で発症日は、初診日ではなく、実際に発症した日、すなわちICD-10の診断基準を満たすようになった日を基準となりますので、何時頃症状が出たのか、ご自分の記憶を喚起する(仕事が●●の工程に差し掛かった時に、朝まで一睡もできなかったetc)、当時の家族や同僚との体調や気分について愚痴などを言っていなかったか確認する、健康診断や精神科医以外の医師への診察の結果を確認するなどして、発症時期を特定してください。
発症前6ヶ月以内でない期間に過重労働しても原則として考慮されませんので,発症時期が何時かが大変重要になります。
発症時期と精神科受診の時期が違い,精神科受診の前後には過重労働の事実がないからと言って,あきらめる必要はありません。
精神疾患の発症時期はICD-10の基準に従って,判断することになります。
うつ病であれば
- 抑うつ気分
- 興味と喜びの喪失
- 易疲労性
- 集中力と注意力の減退
- 自己評価と自信の低下
- 罪責感と無価値感
- 将来に対する希望のない悲観的な見方
- 自傷あるいは自殺の観念や行為
- 睡眠障害
- 食欲不振
などの症状が発症した時期は何時かを検討することになりますが,これらの事情は本人の供述や身近な人の供述に頼るほかないという面が多分にありますので,多くの場合は本人や家族などの供述に従って,発症時期は認定されます。
従って,発症から受診までに時間が経過していてもそれ程心配する必要はありません。
もっとも,精神科に受診した以降に発症時期を遅らせることは困難です。医師により症状などが記録されており,労基署は必ず医療機関への受診記録を取り寄せるからです。ただ,1回だけ睡眠薬をもらっただけで継続的に治療しているわけではないといった場合には,受診していても発症とされない可能性はあります。
→労災申請・損害賠償請求についてはこちらもご覧ください。
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このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。