Q フリーランスで仕事をしている方というのは相当数に上り、建設関係や、コンピューター関係など多数の職種で一人で個人事業主として仕事をしています。そのような方は労災保険に加入できるのでしょうか?

A 労災保険は労働者保護のための制度ですので,個人事業主や会社の役員は加入義務はありませんし、原則として加入できません。

しかし,個人事業主も働く人ではあるので,保険制度が必要と言えます。そのため、労災保険に一定の条件を満たし希望すれば加入することはできます(任意加入)。

 

労災保険の任意加入が認められるのは

  1. タクシーやトラックのドライバー,土木建築業,林業,漁業などの特定の職種の一人親方
  2. 一定数以下の労働者を常時使用する個人事業主若しくは会社の役員で,労働保険事務組合に労働保険の加入業務を委託してる場合

に限られます。従って,土木建築業等の一人親方でもなく,人を雇っているわけでもないコンピューター関係の個人事業主は任意加入することはできないということになります。

もっとも、これは名目上事業者というだけではなく、実態に照らして真に労働者であるということが前提です。労災保険法の適用がある労災保険法上の労働者かは、労働基準法上の労働者と同じであると理解されています。

そして、労働基準法上、労働者なのか事業者なのかは、あくまで実態で判断されるとされています。なぜなら、労働法が労働者を保護する様々な規定を設けているのは労働者は使用者に従属する関係にあるため、対等な交渉が期待できず、放任しておくと不当に労働者の権利が害されてしまうからです。名目上事業者であればよいとすれば、使用者は、事業主としての名目さえ整えればいいことになり、使用者と労働者の力関係の差もあり、容易に労働法の保護が及ばなくなりかねないため、あくまで実態で判断するのです。

労働基準法上の労働者か事業者かの判断基準については

業務委託契約で働いており,社会保険などには一切加入させてもらっていないのですが,労災の対象にはならないのでしょうか?

に記載している通りです。

アシスタントを雇えるような金額の報酬ではなく一人で仕事をしていて、特定の会社に専属的に仕事をしているというような場合や、特定の場所で仕事行っているような場合には、名目が事業者だとしても、実態から労働者として認められる可能性は十分あります。また、労働者として認められた場合には、使用者(元請け)が労災保険に加入していなかったとしても、それは労災保険に加入しなかった使用者に責任があるのであり、労働者に対する補償は加入している場合と同様に行われます。

なお、労災保険に加入義務があるのに未加入で労災保険の適用がされた場合は、使用者は過失の程度に従って、給付額の40%~100%を負担しなければならないとされています。

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。