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経営者は労働者でないので,労災にはならないのが原則です。
もっとも,業務委託契約についてお話したのと一緒で,労働者か否かは名目ではなく,実態で判断します。なぜなら,名目で判断するとすれば,労働法による労働者の保護は容易に脱法が可能となってしまい,労働法規を定めた意味がなくなってしまうからです。また、そもそも労働者の保護が必要なのは、使用者に使用従属する立場にある労働者は対等に使用者と交渉することはできないため、ほおっておくと、使用者によって労働者の権利が不当に制約されかねないからですので、労働者か否かはあくまで実態で判断すべきものです。
労働者か、経営者なのかは労働実態によって判断しますが、判断基準は・・・
では,具体的にどのように労働者かどうかは判断されているのでしょうか。この点について、最高裁の判例はありませんが、多数の下級審の裁判例も明確な基準を示しているわけではなく,多数の要素を総合考慮して判断しているようです。
まず,代表取締役からの指揮監督の有無や内容が問題となります。名目上取締役となっていたとしても,例えばわずかな金額でも一々代表取締役の決済を仰がなければならないような場合には,指揮監督を受けており,業務上の意思決定を行う立場ではないときには労働者性が肯定される要素となります。
次に,時間的場所的拘束性の有無が問題となります。他の従業員と同様に時間や場所を拘束されているのであれば,労働者性を肯定する要素となります。
また,職務の内容も問題となります。一般の従業員と同様現場仕事をしているというような場合には労働者性を肯定する要素になります。
報酬の金額と性質も問題となります。会計上賃金として支給されている場合には,従業員兼務の取締役であると判断する要素となりますし,一般従業員と金額がほとんどかわらないというのであれば労働者性を肯定する要素となります。
また,当初は従業員として入社した方の場合ですと,上記の事情が取締役になるまえと後でどのように変化したかが重要な要素となります。
中小零細のオーナ企業では、実際社長以外は権限がないことがほとんどなので・・・
なお、世の中のほとんどの企業は、いわゆる中小零細のオーナー企業です。そのような企業では、名目上取締役となっていて、実際会社のナンバー2とか3の幹部であるのは間違いがないという場合でも、オーナーである経営者が主要な経営判断は全てしており、オーナーが同意しないと物事が進まないという会社さんがほとんどです。そのような会社では、例えば過去には代表取締役に就任していたような場合でも従業員としての性質を兼ねていると判断され、労働者であると判断されるのがほとんどです。
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このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。