労災申請にあたっては事業主証明欄の記入が必要
労災請求の書式には、事業主の証明欄があります。労災申請する場合には事業主証明欄に、使用者の署名捺印してもらう必要があります。しかし、会社が労災だと認めていない場合にはどうすればよいのでしょうか?
過労による精神疾患や脳心臓疾患で、会社が最初から労災と認めることはほぼありません
労災と認められてしまいますと,会社は様々な補助金を受けられなくなってしまうことや,労災保険で支給されない慰謝料や不足分の逸失利益を請求されてしまう恐れがありますから,会社が労災の申請に協力的でないことは珍しくありません。とりわけ,うつ病などの精神疾患は怪我などと異なり,労災か否かは必ずしも明確でありません。実際、過労による脳心臓疾患や精神疾患の場合認定される確率は半分を大きく下回るのが現状であり、病気になったご本人にとっては仕事以外に原因はなく労災であることは自明と思われるかもしれませんが、客観的に見て、しかも証拠で労災であることを明確にすることは必ずしも容易ではありません。事故と違って、同じように働いていても、全員が病気になるわけではありません。160時間を超える残業をさせているような客観的には明らかに異常な企業でも、経営者自身がそのような過酷な環境で生き抜いてきた経験があるせいか、「俺はあいつの何倍もこれまで働いてきたけど,ぴんぴんしている。病気になったのは本人のせいだ」という意識で全く責任を感じていないということは珍しくありません。そのため、労災の証明を拒否することは非常に多いといいますか、ほとんど拒否してきます。
事業主証明の証明拒否は大した問題ではありません
労災保険の申請書式には会社の証明欄がありますが,労災の申請に会社の証明は必須ではありません。会社が証明を拒否する場合は,会社に署名を求めたが拒否された旨の上申書や,会社の署名を拒否する旨の手紙を添えて提出すれば申請できます。
なお,災害の発生欄に,過労である旨を明記せず,「●年●月頃,うつ病を発症した」とだけ記載すれば,精神疾患に罹患して働けない状況であること自体は会社も争っていないのが通常ですので,会社も証明に協力してくれることもあります。また、災害の発生欄に詳細を記載してしまうと、手の内がばれてしまうことになりかねないため、災害の発生欄はあえて具体的なことは書かないというのも、一つの戦略であり、私は、具体的な過重労働の内容などについては触れないことがほとんどです。
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このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。