残業時間別の労災認定件数について

残業時間別(労災の認定では所定労働時間にかかわらず,1日8時間,週40時間を越える労働を残業時間として計算します)の認定件数は,毎年厚生労働省が発表しています。

平成25年度の認定状況をみますと

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000049293.html

労働時間の認定がされている334件中20時間未満が89件,20時間以上40時間未満が43件,40時間以上60時間未満31件,60時間以上80時間未満27件,80時間以上100時間未満21件,100時間以上120時間未満46件,120時間以上140時間未満22件,140時間以上160時間未満24件,160時間以上31件と一見長時間労働とそれほど関係なく認定しているように見えます。

残業時間別の労災認定”率”をみると

しかし,これは統計資料の表示の仕方が不十分であるためそのように見えるだけです。毎年厚生労働省から公表されている資料では,業務外認定事案(不支給事案)の労働時間別の件数は発表されていませんが,平成23年に精神疾患の労災の認定基準の検討会議(精神疾患の労災認定基準は平成23年12月に改訂されました。)業務外認定された事案の時間別の件数も提出されています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000yc0k-att/2r9852000000yc4m.pdf

これによれば,平成21年度は20時間未満で認定されたのは16件ありますが,業務外認定も64件あり,認定率は20パーセントでした。同様に、20時間以上40時間未満のケースでは認定率は約18パーセント,40時間以上60時間未満のケースですと25パーセント,60時間以上80時間未満のケースで約53パーセント,80位間以上100時間未満のケースですとは約80パーセント,100時間以上120時間未満は約88パーセント,120時間以上は100パーセントとなっています。

労働時間が少なかったり、労働時間の証拠が乏しいケースでも、最初からあきらめる必要はありません。

このように,労働時間が少なかったり、労働時間の証拠が乏しいケースでも、職場で人身事故が発生し、体だけでなく精神的な疾患も発症したケースなど、多数件で労災認定がされており、最初からあきらめる必要性は全くありません。

しかし、少なくとも60時間を越えない事案では,認定を得るのは決して容易ではない傾向があることも否定できません。そのため、まずは長時間労働があるケースでは、それ以外の出来事があったとしても、労働時間をしっかり立証する努力を全力で行うことが重要です。

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このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。