Q 労災申請したところ、無事労災認定されました。労災保険から治療費と発症直前の90日間の支給額から計算した平均賃金の8割が休業補償給付として休んだ日について支給されていますが、残りの2割や、病気にさせられたことに対する慰謝料を会社に請求したいのですが、可能でしょうか?
A
労災補償は会社が従業員が業務によって怪我や病気になったときに補償するための保険です。零細企業ですと、補償したくても支払い能力があるかは分かりませんし、資力はあっても支払いを渋る会社があると病気やけがを負った労働者の救済が速やかに進まず酷なことになるため、国家が最低限の範囲は強制的に保険に加入させてそこから支払うという制度です(交通事故の自賠責も制度の趣旨は類似するものです。)。
そのため,労災保険で給付を受けた分の金額は会社への損害賠償から差し引かれてしまいます(これを損益相殺といいます。)。
もっとも,労災保険では慰謝料は支給されませんので,会社に対して慰謝料を請求することはできます。
また,休業補償給付は従前の収入の8割しか支給されていませんので,支払われていない残りの2割は当然、請求可能です。
加えて、症状は残っているが、これ以上治療しても治らないという状態のことを症状固定と言い、症状固定の認定がされると、休業補償は打ち切られてしまいます。そして、後遺障害等級を認定し、等級に対応した金額を支払って保険の手続きを終了させるのですが、労災保険では後遺障害等級8級以下の場合、労災保険からは一時金が支払われるだけです。8級以下の後遺障害でも後遺症の内容やそれまでの職務の内容によっては就労の継続が困難なことは珍しくなく、年金がないと生活が立ちいかなくなるということも珍しくありません。後遺障害の補償については、損害全体のほんの一部しか労災保険からは補償がされないため、労災保険で補償されない金額はかなり大きな金額となります。補償対象でない部分は会社に請求することになります。
さらに,休業補償給付の2割部分は見舞金的な性質のもので、損害賠償というものではないとして、損益相殺されないことになっていますので,計4割は会社に対して請求できます。
もっとも,損害賠償請求については,労働者自身の健康管理の不十分さや体質的な要素を考慮して過失相殺されてしまうことがありますので,逸失利益についてはかなり減額されてしまうことが少なくありません。
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このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。