Q  私は、仕事の負担により精神疾患を発症し、休職しました。当初は2~3か月休めばよくなると思って、傷病手当金を受給しながら自宅で通院しながら療養していたのですが、半年ほど経っても体調が回復する兆しがありませんでした。傷病手当金は支給期間も限られているため、今後について不安に思い、いろいろ調べたところ労災保険なら長期間給付を受けられることを知り、労災申請しました。無事労災と認められたのですが、既に貰っている傷病手当金はどうすれば良いでしょうか?

A

傷病手当金は,業務上の疾病でないことを前提に受給するものであり、労災の場合は受給できません。

しかし、実際のところ、健康保険組合は職場の状況について細かく把握しているわけではありませんので、建築現場での労災事故や業務中の交通事故のような場合はともかく、病気(労災疾病)の場合は、労災なのか労災ではない病気(私病)なのかはよく分かりません。そのため、労災疾病の場合、労災疾病であることを理由に傷病手当金が支給されないということは通常ありません。また、労災疾病の場合、事故と異なり労災かどうかは、業務実態を調査しなければ通常明らかになりませんので、申請から給付まで順調に調査が進んだケースでも半年から1年くらいは必要で、その間の生活費をどうするかという問題もあります。

そのため、ご質問の事案の様に、まずは傷病手当金を貰いながら、並行して労災申請をするというのが一般的な流れとなります。

もっとも、業務上として認められたのであれば,傷病手当金を受領する理由はなくなってしまいますので,過去に受け取った傷病手当金は返還しなければならないことになります。健康保険組合に連絡して返還の手続きを取ってください。

なお、会社に対する損害賠償訴訟で、傷病手当金を貰っているからその分は減額すべき(損益相殺)だという反論をすることがありますが、傷病手当金は労災を前提とした制度ではなく会社ではないですし、傷病手当金は健康保険組合に返還すべきもので、会社に返す金でもないですから、傷病手当金を貰っているから減額すべきというのは的外れですし、東芝うつ病事件の最高裁判決でも明確に否定されています。

時効などの問題で,実際には労災の業補償給付を受領できていないときにどうなるかについては,こちら

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。