Q 私はX年に長時間労働などの業務上による負担が増したことで精神疾患を発症し、今まで通院を続けています。私は、通院を開始後も無理して働き続けていましたが、発症後1年後(X+1年)に半年間休職し、X+1.5年に一旦復職しました。何とかフルタイムで勤務していた時期もあるのですが、以前の様に責任のある仕事を担当したり、残業をこなしたりといったところまでは回復せず、やはり働き続けるのは無理だとして、X+3年の時点から再び休職になり、X+4年の時点で休職期間満了による退職となりました。そのため、労災申請をすることになりX+4.5年経過した時点で労災申請し、先日X+5年で労災認定されました。労災の休業給付は労災申請した時点から過去2年分ですので、最初の休職のときの傷病手当金を受領していた期間については、労災保険からの休業補償は貰っていないのですが、受領済みの傷病手当金はどうすればいいのでしょうか?

A

労災の休業補償給付は労災申請時点から過去2年分となります。そのため、質問の事例のように復職と休職を繰り返していた事案や、有給の病気休暇がある場合など、労災申請を発病後長期間経過後に行った場合には,労災の休業補償は時効で請求できなくなっていることがあります。傷病手当金は労災でない場合に給付を受けられるものであり、休業補償給付を受けた場合は返還するのが原則であるため ,時効により給付を受けられない場合にも傷病手当金を返さなければならないのかという問題があります。  

業務上であった以上,傷病手当金を受給する資格はないのであり 休業補償給付を受け取っていなかったからと言って,傷病手当金の返還義務を免れるわけではありません。

もっとも,労災の休業補償給付と違って、会社に対する損害賠償は安全配慮義務違犯であれば10年となりますので、ほとんどの場合、休業補償給付は時効で消滅していても、会社に対する損害賠償は可能な事案がほとんどです。そこで、実務上は会社からの損害賠償(時効は10年)を受け取ってから返還することが多いようです。

なお、休業補償給付の時効の問題は、労災申請したが、中々結論が出なかったり、労基署段階では不支給決定となり、労働局への審査請求や労働保険審査会での再審査請求、行政裁判を争って、数年経過してようやく支給されるようになった場合にも生じますが、これは通達で救済が認められており、労基署から追加申請するよう促した場合を除いて、業務上決定が出た後、速やかに請求すればよいとされています。

関連記事はこちら

労災給付・損害賠償金・慰謝料などを受け取った場合、税金や社会保険料は?

傷病手当金は会社に対する損害賠償請求の際、差し引かれるのでしょうか。

労災認定獲得後、既に受給済みの傷病手当金は返還すべき?

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。