職場復帰を認めてもらえないのですがどうすればよいのでしょうか?また、就労条件がこちらの希望とはかけ離れたものを提案されていますが、なんとかなりませんか?
うつ病などで休業してしまったが,しばらく休んだら体調が回復してきて,主治医からも復職をOKといわれているのに,会社から仕事への復帰の受け入れを拒まれているという相談がよくあります。その際の対処方法についてお話します。
目次
- なぜ会社は職場復帰を認めてくれないのでしょうか?
- まず考えるべきなのは、「あなたが本当に働けるまでに回復しているのか?」ということです
- 復職の判断基準について
- 休職前と全く同じ状態まで回復していなければならないのでしょうか?
- 復職の基準を読みましたが,私も主治医も復職できると考えているのに,会社が復職を認めてくれません。休職期間が切れてしまいそうなのですが,具体的にどうすればよいのでしょうか?
なぜ会社は職場復帰を認めてくれないのでしょうか?

まず考えるべきなのは、「あなたが本当に仕事に復帰して働けるまでに回復しているのか?」ということです

簡単に復職の診断書を書いてくれる医師は復職に向けて協力してくれるのですから,その場では患者にとってありがたい存在でしょうが,結局働ける状態にまで回復していなければ早晩欠勤を繰り返し,再び休職に追い込まれてしまうだけで,却って治療期間が長引くだけでなく,失敗の経験により職場復帰に対する不安感が強まり慢性化してしまうリスクもあります(もっとも,余り復職に慎重になりすぎると,休職期間が長引くことは技能の陳腐化や援助を期待できる同僚がいなくなるなど弊害もありますので,そのバランスは簡単ではないのですが)。十分な回復をせずに復職しても結局損するだけです。当たり前のことですが,しっかりと体調を回復させることが一番重要です。
復職の判断基準について
では,どのような状態になれば,復職可能といえるのでしょうか。 まず、区別しなければならないのは①一般的な労働に耐えうる程度まで回復していることと、②実際の職場で復帰可能かは別の問題であるということです。 比較的単純で責任もそれ程高くない補助的な事務作業から,きつい肉体労働,一瞬の気の緩みが大損害につながる業務など,業務の内容は様々です。そのため,職場復帰に必要な状態は様々で病状が一定程度まで回復しているからといって,一律に職場復帰が可能とはいえないのです。また,職場復帰に向けたプログラムの充実度も企業によって様々です。試し出勤制度など充実したプログラムを整えている 会社もありますが,そのような制度の設置は義務というわけではないので,必要な回復状況も変わってきます。 ②の具体的な職場において復職可能か否かは,余り一般論を示すことはできませんが, まず①の一般的に労働に耐えうる程度まで回復しているか否かはどのように判断しているのでしょうか。 この点について,うつ病の診断基準のDSMIVでは症状がない期間が2ヶ月続けば完全寛解としています。 また、うつ病心療Q&A増補版(渡辺昌祐・光浦克甫著)では
- 正常気分(症状の喪失)になってから,短くとも1ヶ月経過していること
- 日常生活が普段と同様にできること
- 服薬の継続が完全にできること
- 服薬量がかなり少量であり,鎮静的副作用がないこと
をあげています。症状が消失してから一定程度の期間経過してから復職を行うというのが一般的でしょう。 では,②の具体的な職場の業務内容も踏まえた復職の判断はどのように行うのでしょうか。 厚生労働省が出しているガイドライン「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引」で判断基準の例として挙げているのは
- 労働者が職場復帰に対して十分な意欲を示していること
- 通勤時間帯に一人で安全に通勤できること
- 会社が設定している勤務日・勤務時間の就労が継続して可能であること
- 業務に必要な作業(読書,コンピューター作業,軽度の運動等)をこなせること
- 作業等による疲労が翌日までに十分回復していること
- 適切な睡眠覚醒のリズムが整い,昼間眠気がないこと
- 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復していること

をあげています。
休職前と全く同じ状態まで回復していなければならないのでしょうか?また、異動等は認められるのでしょうか?

また,当初は軽易な業務に就かせればほどなく通常業務へ復帰できるという回復ぶりである場合には,使用者がそのような配慮を行うことを義務付けられる場合もあるとされています(東京地裁平成16年3月26日判決)。 従って、これまで通り残業できなければ、復職を認めないといった、会社側の主張は認められません。そのような場合には、休職ではなく、会社の帰責性のある就労拒絶として、給料を請求可能でしょう。もっとも、具体的にどのような業務を与えるかについては、その職場の状況や労働者の能力経験などによりケースバイケースとしかいいようがなく、法律で規定することになじむものではありません。そのため、ハラスメントをしている上司がいる部署以外のところに行きたい、もしくは異動後の部署の激務で体調不良となったので、異動前の職場に戻してほしいといった要望を裁判手続きで認めさせるのは簡単ではないと言えますが、前記のように、「現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討すべきである。」というのが裁判所の考え方ですので、これを武器に交渉していくことになるでしょう。
一般的な能力不足による解雇では、相対評価で下位10パーセント以下の順位を連続して取ったという場合について、相対評価で低評価となる者は必ずいるため、解雇の正当理由とはならず、将来にわたって向上する見込みがないとはいえないとして解雇を無効としています(東京地判平成11年10月15日)。傷病で労働能力が低下している従業員については,過去に一定レベルの実績を積んでいたということを考え合わせれば、通常の能力不足で解雇が問題となる労働者よりもむしろ保護する必要は高いのであり、傷病による能力低下についても同様に余り厳しい判断基準ではないと考えるべきです。
復職の基準を読みましたが,私も主治医も復職できると考えているのに,会社が復職を認めてくれません。休職期間が切れてしまいそうなのですが,具体的にどうすればよいのでしょうか?

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このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。