職場復帰を認めてもらえないのですがどうすればよいのでしょうか?

うつ病などで休業してしまったが,しばらく休んだら体調が回復してきて,主治医からも復職をOKといわれているのに,会社から受け入れを拒まれているという相談がよくあります。その際の対処方法についてお話します。

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なぜ会社は職場復帰を認めてくれないのでしょうか?

会社側の気持ちは以下のような感じでしょう。 「一度休職してしまった社員は働ける状態までは回復していたとしても,休職以前と同様に長時間の残業をバリバリやるというところまで回復しているわけではない。それなのに,給料は残業代などを除けばこれまでどおり支払わなけなければならない(短縮勤務の場合は別)。」 また, 「復職した後に体調が悪化してしまえば会社の責任問題にもなりかねない。」 さらには, 「過去に主治医から復職可能という診断書が出たので復職させたはいいけど,ほとんど仕事が出来ない状態ですぐに欠勤を繰り返すようになり,数ヶ月でまた 休職になってしまい,その後も復職と休職を繰り返しているという社員がいて,その間対応に追われ大変な思いをしたので、今回は辞めて欲しい」 といったところが会社の本音であったりします。
会社

まず考えるべきなのは、「あなたが本当に働けるまでに回復しているのか?」ということです

病院
主治医が大丈夫と言ってるのに,何で復職できないんだという方もいるかもしれません 。しかし,先ほどお話したように,主治医が復職可能との診断書を出したから復職させたのに,やっぱりダメだったという経験した企業は少なくありません。 この点は法律的な問題というよりは,純粋に医学的な判断に近いものであり,法律家の私には専門外の分野ですので,それを前提にお読みいただければと思います。日本の精神科医は統合失調症など比較的重度な疾患を入院設備のある大病院で学ん できた方が多いせいか,うつ病などの患者が働けるかどうかという比較的軽症の患者の抱える問題についてはそれ程詳しくないことがあります。そのため,経済 的な問題などから復職を焦る患者の要望に対して,本当に働けるまでに回復しているかしっかり吟味せずに多少体調が多少回復しているからという理由で安易に復職可能という診断書を提出する精神科医が散見されます。

簡単に復職の診断書を書いてくれる医師は復職に向けて協力してくれるのですから,その場では患者にとってありがたい存在でしょうが,結局働ける状態にまで回復していなければ早晩欠勤を繰り返し,再び休職に追い込まれてしまうだけで,却って治療期間が長引くだけでなく,失敗の経験により職場復帰に対する不安感が強まり慢性化してしまうリスクもあります(もっとも,余り復職に慎重になりすぎると,休職期間が長引くことは技能の陳腐化や援助を期待できる同僚がいなくなるなど弊害もありますので,そのバランスは簡単ではないのですが)。十分な回復をせずに復職しても結局損するだけです。当たり前のことですが,しっかりと体調を回復させることが一番重要です。


復職の判断基準について

では,どのような状態になれば,復職可能といえるのでしょうか。 まず、区別しなければならないのは①一般的な労働に耐えうる程度まで回復していることと、②実際の職場で復帰可能かは別の問題であるということです。 比較的単純で責任もそれ程高くない補助的な事務作業から,きつい肉体労働,一瞬の気の緩みが大損害につながる業務など,業務の内容は様々です。そのため,職場復帰に必要な状態は様々で病状が一定程度まで回復しているからといって,一律に職場復帰が可能とはいえないのです。また,職場復帰に向けたプログラムの充実度も企業によって様々です。試し出勤制度など充実したプログラムを整えている 会社もありますが,そのような制度の設置は義務というわけではないので,必要な回復状況も変わってきます。 ②の具体的な職場において復職可能か否かは,余り一般論を示すことはできませんが, まず①の一般的に労働に耐えうる程度まで回復しているか否かはどのように判断しているのでしょうか。 この点について,うつ病の診断基準のDSMIVでは症状がない期間が2ヶ月続けば完全寛解としています。 また、うつ病心療Q&A増補版(渡辺昌祐・光浦克甫著)では

  1. 正常気分(症状の喪失)になってから,短くとも1ヶ月経過していること
  2. 日常生活が普段と同様にできること
  3. 服薬の継続が完全にできること
  4. 服薬量がかなり少量であり,鎮静的副作用がないこと

をあげています。症状が消失してから一定程度の期間経過してから復職を行うというのが一般的でしょう。 では,②の具体的な職場の業務内容も踏まえた復職の判断はどのように行うのでしょうか。 厚生労働省が出しているガイドライン「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引」で判断基準の例として挙げているのは

  1. 労働者が職場復帰に対して十分な意欲を示していること
  2. 通勤時間帯に一人で安全に通勤できること
  3. 会社が設定している勤務日・勤務時間の就労が継続して可能であること
  4. 業務に必要な作業(読書,コンピューター作業,軽度の運動等)をこなせること
  5. 作業等による疲労が翌日までに十分回復していること
  6. 適切な睡眠覚醒のリズムが整い,昼間眠気がないこと
  7. 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復していること
医師

をあげています。


休職前と全く同じ状態まで回復していなければならないのでしょうか?

回復
従前の職務を通常程度行える健康状態まで回復したときとするのが原則です。 では,どの程度職務を行えれば通常程度といえるのでしょうか?例えば,平均で残業時間が月80時間という会社の場合,それに耐えられなければ通常程度行えるとはいえないのでしょうか? この点,最高裁は職務内容が特定されていない一般的な雇用契約の場合「上告人の能力、経験、地位、被上告人の規模、業種、被上告人における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして上告人が配置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討すべきである。」と(最高裁平成10年4月9日判決)とされています。

また,当初は軽易な業務に就かせればほどなく通常業務へ復帰できるという回復ぶりである場合には,使用者がそのような配慮を行うことを義務付けられる場合もあるとされています(東京地裁平成16年3月26日判決)。 一般的な能力不足による解雇では、相対評価で下位10パーセント以下の順位を連続して取ったという場合について、相対評価で低評価となる者は必ずいるため、解雇の正当理由とはならず、将来にわたって向上する見込みがないとはいえないとして解雇を無効としています(東京地判平成11年10月15日)。傷病で労働能力が低下している従業員については,過去に一定レベルの実績を積んでいたということを考え合わせれば、通常の能力不足で解雇が問題となる労働者よりもむしろ保護する必要は高いのであり、傷病による能力低下についても同様に余り厳しい判断基準ではないと考えるべきです。


復職の基準を読みましたが,私も主治医も復職できると考えているのに,会社が復職を認めてくれません。休職期間が切れてしまいそうなのですが,具体的にどうすればよいのでしょうか?

裁判で争った場合,復職できる状態であることを労働者側が立証できなければ,労働者は負けてしまいます。ではどのような証拠を準備すればよいのでしょうか。 裁判で争った場合に一番重要なのは主治医の協力です。鑑定書までは必須ではありませんが,なぜ復職可能と判断したのか,具体的且つ豊富なエピソード(●月●日の問診で「●●」との発言があった)を基にして意見を述べてもらう必要があります。主治医の協力が得られるようお願いしておかねばなりません。 次に,考えられるのはあなた自身が働ける状態であることを示す具体的なエピソードを証拠化しておくことです。 例えば,職場復帰支援の手引で挙げられている通勤が可能であることを立証するために,実際に同じ時間に通勤電車で会社の前まで週5日行ってみてはいかがでしょうか。会社の前まで行ったことはSuicaの履歴をプリントアウトするなどして証拠化しましょう。また、ついでに近くの喫茶店や図書館で仕事に多少なりとも関連する勉強や調査などをすれば(事務職でない場合は仕事に近い作業を自分なりに考えて見てください)、仕事に必要な作業ができる状況かが分かります。行った作業内容は毎日詳しくブログなどにアップしておくことで、後々の証拠となります。
職場復帰
なお、会社側からならし勤務や時短でと提案されているが、自分としては、最初からフルタイムで働きたいとの相談もあります。精神疾患からの復職は失敗に終わる事例も少なくありませんので、最初は無理しないことが極めて大切です。金銭的な問題もあるかもしれませんが、復職に失敗すれば、そもそも職を失いかねないわけで、復職に失敗すれば損失が桁違いに大きくなります。ただでさえ、体調に問題がある状況で、会社との関係を悪くするのは得策ではありません。会社の提案している短縮勤務が不必要に長く、退職に追い込もうとしているような事案では戦わざるを得ないですが、1~3ヶ月程度の期間の短縮勤務であれば目先の金銭ではなく確実に復職することを優先してください。