先日、一部で報道されましたが、長時間労働がない労災の遺族補償請求に対する不支給処分に対して、取り消しを求める行政訴訟で、東京高等裁判所で逆転勝利しました。

【事案の概要】
被災者は、大手情報機器会社において、長年文化支援事業の担当をしていました。被災者は、支援していた分野の専門知識に基づき、オリジナリティに富んだ企画を多数行っており、企業の文化支援事業の世界では知られた存在であるとともに、勤務先の会社が文化支援事業関連の賞を受賞する立役者になるなど、直接収益に貢献する部門ではないものの、勤務先に大きな貢献をしていました。
ところが、従前被災者を理解し支援していた上司が昇進することとなり、新たな上司が異動となりました。新しい上司は情報機器を扱うという特色を前面に出したいという考えから、ITと絡めた企画を推進し、また明確な費用対効果を求めるという新しい評価基準を策定しました。その結果、被災者の担当していたプロジェクトは次々と打ち切られてしまいました。さらに、新しい上司は文化活動に全く興味がなく、文化活動を行っている人は「遊んでいる人」という認識で、その旨支援先の担当者に行ってしまい、支援先から苦言を呈されるというトラブルが起こりました。そのような中、被災者は何とか支援先への影響を最小限にするべく奔走しますが、功を奏せず、仕事がほとんどなくなり、文化支援の担当から福祉関係の援助の担当になり従前の経験知識が全く生かせなくなり、そのような中で体調を徐々に悪化させ、自死してしまいました。

【東京地裁判決とその後の対応】
東京地裁判決は、被災者が従前の活動を維持するべく苦慮していたのは推察できるが、それは個人的な思い入れに過ぎないので考慮できず、上司とのトラブルとは言えるが、大きなトラブルとは言えないし、上司が定めた新たな基準に従って評価すること自体は困難な業務ではないとして、労災とは認めませんでした。
そこで、文化支援事業がどのように実施され、担当者に求められる資質や行動がどのようなものかを大量に資料を読み込んで、新しい上司の言動がいかに無茶苦茶であったか、仮に撤退縮小はやむを得ないとしても支援先の活動への配慮するのは当然であることを詳細に論じました。また、地裁で担当していた弁護士は労災の専門家ではなかったため、事実自体は訴訟記録に出ているものの、心理的負荷が生じる出来事のカテゴリーとしては主張されていなかった点について、追加で評価するよう主張しました。
その結果、逆転勝利となりました。

【コメント】
一般に長時間労働やそれに代わる明白な出来事(暴力を振るわれた、目の前で死亡事故が起きた等)がない事案で労災と認めさせるのは困難といわれていますが、業務内容を詳細に主張立証することで、裁判所に業務の困難性とその負荷を理解してもらうことに成功したことで勝利につながったと考えています。

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。