【依頼するまで】
Aさんは技術者派遣の会社から製造メーカーに派遣され、検査技師などとして10年以上にわたって、働いてきました。持病があるAさんは2度ほど入院して休んだことがありましたが、ここ数年は欠勤等もなく勤務していました。
Aさんの新しい派遣先が、休憩もろくに取れないという状態で持病の薬の服薬もできない状況であったため、派遣先の変更を求めました。ところが、担当の営業スタッフは話は聞くものの、何の対応もしれくれないという状況が続きました。
そうしたところ、会社から診断書の提出を命じられました。Aさんとしては、長年問題なく勤務を続けており、定期健康診断等は受診していましたので、いまさら診断書が必要な理由は理解に苦しむものであり、まずこちらの異動の要望に対して、なぜ対応しないのか、診断書がなぜ必要なのかちゃんと説明して欲しいと要望しました。
ところが、会社はAさんの要望を無視し、一方的に診断書を提出するよう要求するだけで平行線となり、一方的に通院のスケジュールなどからしておよそ無理な期限を指定して診断書を提出するよう命じ、懲戒処分を行いました。
さらに、新型コロナの流行が始まりました。Aさんは持病があり感染した際の重症化リスクが高かったのですが、派遣先は自動車での通勤が認めていたのに、自動車通勤を禁じ、特に勤怠に問題があったわけではないのに、健康状態がよく分からないとして、自宅待機を命じ、Aさんが会社の求めに応じて産業医との面談や主治医の診断書を提出しても自宅待機命令を続け、休業控除を行いました。
会社から退職勧奨があり、Aさんとしても条件次第と思っていたのですが、会社側からの提案は月給の1か月程度の割り増しだけで、しかもなぜか自己都合の退職金しか支給しないというものでした。

【依頼後の経緯】
Aさんから依頼を受けた私は、長年問題なく働いてきたのであるし、主治医は就労に問題がないと言っているのに、派遣先がないというのは、到底信じがたく単に見つける気がないだけと思われるし、仮に本当だったとしたら、それは単に会社が営業に失敗したという会社の責任であり、労働者が減給される理由はないと、会社側の代理人と交渉しました。しかし、減給が有効であると強弁し、退職金について若干の上乗せをする用意はあるとは言うものの具体的な提案もなく、話し合いになりませんでした。
そこで、減給分の支払いを求める労働審判を提起しました。相手方は、Aさんの病気に加えて、繰り返される暴言(Aさんは病気の影響もあり感情的になりやすく、会社の不誠実な対応もあり、感情的な発言を行っていたのは事実でした。)等を理由に派遣先を見つけられなかったと主張しました。当方は、そもそも休業が会社側の責任がないと言えるのは極めて限定される上、長年特段の問題なく勤務していたし、暴言も会社との関係であり、派遣先と揉めたわけではないと反論しました。
裁判所は、長年勤怠等問題なく働いてきたAさんの体調は派遣できない状況ではないとして、減給を無効との心証開示をし、交渉の結果、減給分に加えて1年弱の給料を支払って退職するとの内容で和解が成立しました。

【ポイント】 休業に伴う減給が有効となることはほとんどありません。

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このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。