Aさんは、正社員募集の広告を見て、応募したところ、正社員として採用するかは、アルバイトとしての働きぶりを見て決めると言われ、とりあえず、アルバイトとして働くことになりました。
数カ月して面接を受けましたが、働きぶりが不十分だとして正社員にはしてもらえませんでした。Aさんは、その後何度か、家族もたくさんいたため国保の保険料も高額となるため、正社員でなくてもいいので社会保険だけでも加入させてほしいと依頼したものの(会社はAさんが社会保険への加入を拒否したと主張しています。)、社会保険に加入させてもらえないまま働き続けました。
Aさんは、すぐに社会保険に入れるものだと思っていたため、年金や保険の手続きをしないまま、数年働き続けてしまいましたが、その後、精神疾患を発症し、働けなくなってしまいました。
通常、精神疾患で働けなくなった場合は、健康保険組合から傷病手当金を1年半受領でき、その後は年金機構から障害年金が受給できます。ところが、Aさんは国民健康保険しか加入しておらず、国民健康保険は傷病手当金制度がなく、傷病手当金は住できませんでした。また年金も未納となっており、障害年金も受給できなくなってしまいました(労災申請はできますが、認められるまでかなり時間がかかるし、認定されるとは限らないため、まずは傷病手当金と障害年金で対応するのが通常ですし、傷病手当金と労災は併給できませんが、障害年金は労災給付と一部調整はありますが併給できます。)。
法人の場合、フルタイムで働く場合は、アルバイトであろうと契約社員であろうと、使用者は社会保険に加入させる義務があります。これを怠ったのは会社に責任があるとして、損害賠償請求を行いました。
かなり時間がかかりましたし、Aさんも国民年金を未納にしていた落ち度は確かにある事案でしたが和解が成立しました。
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このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。