Aさんは、長時間労働の末、精神疾患を発症し、就労不可能となりました。
しかし、Aさんは社会保険に加入しておらず、通常であれば働けなくなった場合に支給を受けられる傷病手当金を受給できませんでした。困ったAさんはいろいろなところに相談したのですが、ハローワークで、主治医に就労可能の診断書をもらって、失業給付を受けたらどうかという助言をもらいました。そこで、2か月ほど休んで体調が多少改善した際に、主治医に頼み込んで就労可能の診断書をもらいました。
Aさんは、再就職活動をしたものの、体調が悪いことが一目で分かる状況であったため、どこにも採用されず、就職活動の疲れで、むしろ体調が悪化してしまい、1か月ほどで再度主治医から就労不能の診断を受けました。その後、病気が業務上であることは認められたのですが、就労可能の診断がされて以降は就労可能であるとして、治療費は支給されたものの、休業補償は不支給となってしまいました。
主治医の紹介で、Aさんは私のところに相談に来ました。主治医の協力を得て、精神医学における就労可能との判断の枠組み、判断の精度の限界や実務上の就労可能との判断の意味を論じ、さらにAさんの体調の推移などを詳細に説明する意見書を作成したところ、無事取り消し決定となり、休業補償の支給を受けられるようになりました。
精神疾患の労災認定は精神医学の知識が必須であるため、精神医学分野に精通した弁護士に相談されることをお勧めします。
このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。