トラックドライバーとして働く被災者は、お中元による繁忙期に加えて、上司からノルマ未達なので売り上げの一部を付け替えさせるよう求められたのを拒否したのをきっかけに、降格に同意するようにと強要されるなどの嫌がらせを受けて、精神疾患(うつ病)を発症し、現在まで10年近く療養を続けています。

発症直前の時期の長時間労働やハラスメントは一応証拠もあったのですが、主治医が、発症の半年くらい前から胃痛があったことを理由に身体表現性障害だとして、実際の発症の半年ほど前が発症時期だとの意見書を書いたため、私と被災者で準備した証拠は一切考慮されませんでした。発症の半年ほど前は、年末年始で多少繁忙であったことを除くと特段の出来事もなかったため、業務外認定となってしまいました。

私は、労災申請に先立ち主治医にも面談し、発症日が重要であること、うつ病の本格的症状が出たのは夏であることを説明したのですが、主治医が勝手に発症日を回答したため、そのような結果となってしまいました。

ストレスに伴う動悸、胸痛、胃痛、下痢など様々な身体症状は多くの人が経験したことがあるでしょう。ストレスに伴い様々な身体症状が生じることは健康な人でもよくある通常の身体反応であり、その程度や持続期間が著しいもの(身体症状のために業務に具体的に支障が生じており、2年程度持続するなど)でない限り病気とは扱わないというのが、ICD-10やDMSの考え方です。ところが、そのような診断基準を無視した意見を述べる医師は珍しい存在では全くありません。労災の認定基準ではICD-10に従って発症時期を決めると明記しているにもかかわらず、国も一つでも症状があれば、発症しているというICD-10を無視した主張を繰り返しています。

その後、被災者は主治医を変えたため、新しい主治医の協力を得て、最初の主治医の判断が誤りであることを詳細に記載した意見書を作成したところ、発症時期が変更となり、業務上と認定されました。

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。