先週,過労死防止対策推進法が成立しました。
私も過労死防止法の制定運動の実行委員会の事務局(末席程度ですが)の一員として活動し,署名活動などはもとより,昨年の法案提出に際しては,1週間近く国会に詰めて議員への要請活動を行うなど,制定に尽力しました。
過労死防止法の制定活動は過労死で家族を亡くされた遺族の方が中心の活動であり,特に推進団体がある活動ではありません。私も当然ながら,手弁当で活動を行っていました。
では,なぜ私はこのような活動に参加するのでしょうか。
社会の中では,法律や行政指導,業界団体の自主規制等の既存制度では上手く処理できない問題が次々と発生します。そのような問題は個別救済を求めてまず,司法の場に集まってくるのです。
そして,このような被害者の声を集約し,社会全体の問題として問題提起していくのは誰がやるべきなのでしょうか?
一番大事なのは当事者です。今回の運動も立役者は夫・息子を亡くした遺族です(お名前を記しますと寺西,西垣,中原さんの3名が中心となって尽力されました。)。
しかし,優先して取組むべき問題を選別し,法案を作り,運動の経験を凝集しetc・・・といった様々な課題はサポートがなければ運動は進められません。そして,そのような活動を行える,被害者の側にいて,問題の状況はもとより,運動の技術的な情報などのサポートが行え,しかも自由に動くことができ,それなりの人材の層がある職業というと限られてきます。弁護士に期待される役割は大きいと思います。
憲法を引くまでもなく,少数者の人権保障は司法そして弁護士の役割です。
一昔前,貸金業法のいわゆるグレーゾーン金利(私法上は無効だが,刑罰などはなく利息制限法を越える高利の貸し出しが野放しになっていた)の撤廃問題で,サラ金業者は「どうせ過払いで食べている弁護士が本気で法律改正なんかできるわけない」と訳知り顔でうそぶいていたものでした。しかし,結果がどうなったかは誰もが知っていることです。この改正で,弁護士業界は大きな飯の種を失いましたが,改正を推し進めた宇都宮弁護士を始めとした消費者弁護士をこの問題で批判する人など見たことがありません。
私は,自分で育てた分野を自分で葬り去る,これこそが弁護士の理想だと思っています。
過労死防止法は貸金業法の改正とは違い法律をかえればすむという問題ではありませんが,私も貸金業法の改正に取組んだ弁護士と同じで,自分の仕事をなくすために立法活動に取組んでいます。
司法改革の掛け声の中で,弁護士はサービス業であるから競争しろという掛け声がさかんにありました。
私は自分の仕事をなくすために活動しています。明日の飯の種の心配をしているような状況ではとても不可能なことです。弁護士の仕事は需要の拡大などとは正反対の役割が求められているのではないでしょうか。
このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。