最低賃金を3割上昇させたらどうなるか?

最低賃金を3割アップしたら、吉野家はどうなるか試算してみる。
まず、吉野家のようなファーストフードの人件費率はだいたい20%~25%程度。
吉野家の時給は最賃とは限りませんが、基本的には現状でも最賃に若干上乗せした程度の金額からスタートするのが通常ですので、最賃が上がったら仕事がきつい分の上乗せをしなければ人が集まらないでしょうから、最賃よりも相応に高い給料をもらっている正社員の給料はさほど変わらないでしょうが、パートの人件費は3割はあがるでしょう。
吉野家の牛丼の並が380円で、人件費率が20%とするとこれまでの人件費は一杯当り76円が30%アップして98.8円に上昇します(事件比率には正社員の給料も当然含まれますが、その点は無視するとします。)。全額価格に転嫁すると約410円になります。

人間はその構造上食費が多少上がっても、食べる量は変わりません。厳密にいえば、日本にも食費に困る層は存在していて、食料品の値段が上がったので食べる量を抑えてという方は現実にいますが、そのような人はむしろ最低賃金上昇の恩恵を受ける層ですので、影響は相殺されるはずです。
そして、通常の材料費の高騰の影響による値上げ(例えば、コメや牛肉が高騰した)であれば、そばとかハンバーガーとか別の食材がメインのファーストフードに客が逃げるということはあるでしょう。通常の場合、牛丼の30円の値上げというのは壊滅的とはまではいえないでしょうが、私が吉野家の経営者なら真剣に悩む決断でしょう。
しかし、最賃の値上げに伴う値上げの場合には他のファーストフードも同様の値上げをせざるを得ませんので、他の外食との相対比較では競争力は変わりません。他の外食に逃げるという心配はあまりありません。
また、弁当等の中食に逃げるというのも、惣菜の人件費率は30%程度ですし、吉野家の場合コンビニの弁当と価格帯はあまり変わりませんので、中食との比較でも競争力が落ちるわけでもありません。
考えられる消費者の選択肢は自宅での自炊でしょうが、吉野家の牛丼と同じレベルのものを自宅で同じ値段で作るのははっきりいって無理です。また、貧困層でも外に働きに行けば今までよりも稼ぐのがはるかに容易になっている社会でわざわざ数十円の金のために自炊を始める人は無視できる程度の数にしかならないでしょう。
そうすると、吉野家の客数が最低賃金のコスト上昇による値上げによって落ちるということはあまりなさそうです。それ程、大きな混乱なく価格転嫁できるのではないでしょうか。
もっとも、経営者は省力化・効率化によってコストアップを抑えるよう企業努力する結果、雇用が減るのではないかという疑問はあり得ると思います(最賃の反対論の根拠はここにあります。)。しかし、今の牛丼屋って、歩く歩数まで計算して設計して徹底的に効率化が考え抜かれていますので、どこを省力化するというのでしょうか?
敢えて、あげれば食券機の導入ですが、吉野家の場合、食券機をあえて導入しないで接客を大事にするというのをポリシーとしてきました。牛丼の値段はこれまで社会状況の変化で100円以上の幅で上下してきましたが、変化させなかった点です。数十円程度のコストアップで変える可能性は高くないと思われます。
また、仮に吉野家が食券機の導入に踏み切って、若干のパートの削減に踏み切ったとして、失業率が上がるということにはなりません。現在多くの仕事で人手不足により、受注を見送っているという声が上がっています。経済状態が人余りの時代であればともかく、人手不足の時代であれば、生産性の向上によって、雇用が多少減少しても、そもそも人手不足なのですから、失業率が上昇するということはあり得ません。
本来であれば、時給を上げることで人手不足は解消するはずですが、なかなか時給は上がっていません。つまり、市場が効率的に機能していないということですから、最低賃金の改定う形で、賃金を上げることで経済全体の効率化が図れるはずです。

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。