納得いかない理由で退職勧奨を受けましたが、辞めたくありません。
退職勧奨されたら、どのような対応すれば良い!?適切な対処法について、留意しなければならないことおよび有利な条件を引き出すための2つのポイントを弁護士が解説します。
目次
- ポイント退職勧奨に応じる義務はありませんし、退職勧奨を本人の意思に反して続けると違法行為となる可能性もあるので、明確に拒否することが重要です。ただし、断ってその後どうするのかということも考える必要があります。
- 1 そもそも退職勧奨に応じる義務はもちろん面談に応じる義務もありません。
- 2 一番のポイントは納得できないなら、その場で退職届にサインしないこと
- 3 弁護士に依頼すれば、辛い退職勧奨の対応を自分でしなくて済むようになります
- 4 退職勧奨を拒否し続けた場合の会社側の出方(解雇、異動)を解説します。
- 5 会社の予想される措置を踏まえて現実的な出口(あくまで今の会社にとどまるか、退職条件を交渉をした上で転職するか)を見据えてしっかり時間をかけて検討する必要があります。
- 6 有利な条件を引き出すための2つのポイント
ポイント
退職勧奨に応じる義務はありませんし、退職勧奨を本人の意思に反して続けると違法行為となる可能性もあるので、明確に拒否することが重要です。ただし、断ってその後どうするのかということも考える必要があります。
1 そもそも退職勧奨に応じる義務はもちろん面談に応じる義務もありません。
退職勧奨とは、退職を勧奨している、つまり退職してくれませんかと会社が従業員にお誘いしているというだけのことです。雇用契約も契約です。契約は(少なくとも建前としては)対等な当事者が自由な意思に基づいて合意により成立するものであり、解約も契約内容を改めて合意で変更させる契約交渉ですから、契約内容の変更は原則として合意がなければなりません。ですから、基本的に会社は退職その他契約内容の変更してほしいとお願いすることができるだけで、一方的に変更する権限などありません。
それだけでなく、退職勧奨の面談を強要したり業務命令とすることは違法行為(それほど大きな金額にはなりませんが、損害賠償で慰謝料が認められる可能性もあります。)にもなりますので、納得できないなら、はっきりと拒否することが重要です。
退職勧奨つまり、退職してくれませんかと会社が労働者にお願いすることは、あくまで任意のお願いである限り基本的に違法ではありません。しかしながら、退職勧奨の面談を業務命令として行うことなど、退職するつもりはない、退職の話し合い自体したくないと拒否しているにもかかわらず執拗に退職勧奨を続ければ、違法行為となります。雇用契約は労働者が使用者の指揮命令に従って労働力を提供するという内容です。したがって、日常業務では使用者の命令に服する必要があります。しかしながら、退職勧奨は契約内容の変更に関する交渉です。そして、契約交渉はお互い対等な立場で自由な意思決定に基づき行うべきものであり、一方当事者である使用者が従業員に命じるような立場にはありません。ですので、会社は退職勧奨に応じて退職合意をするよう命じることだけでなく、退職勧奨の面談に応じるよう業務命令をする権限もありません。ですから、退職に応じるつもりはないこと、退職勧奨自体をやめてほしいとはっきりと伝えることが重要です。
2 一番のポイントは納得できないなら、その場で退職届にサインしないこと
先ほど、退職勧奨は契約変更のお誘いであると解説しましたが、逆に言いますと、合意が成立してしまえば効力が発生しますので、退職届に署名捺印してしまえば、基本的にそれは有効です。納得していなかった、強引に迫られたのだといったところで、社会は署名捺印してしまえば、法的効力は発生するそういうルールに基づいて動いています。無効となるのは正当な理由もないのに懲戒解雇すると脅されて信じて署名捺印に応じたといったケース(かつそのことについて証拠が残っている)など極めて例外的な事案を除いて、有効となってしまいます。また、後ほど解説しますが、交渉は時間をかけるほど譲歩を得られやすいという性質のものですので、急いで署名するメリットはほとんどありませんので、勇気をもって断る、少なくとも重要なことなのでこの場では決められないなどとその場はやり過ごして署名することは絶対に避けましょう。
なお、口頭で退職するつもりであるということを言ってしまったというケースもあるでしょうが、口頭での発言はほとんどの場合、最終的な合意が成立していないとの認定になることがほとんどですので、ほとんど心配する必要はありません。
一方で、退職届に署名捺印した場合は、原則として退職を撤回することはできません。この記事をご覧の方には真意から退職に合意したわけではないと言いたい方もすくなくないと思いますが、心から納得していないとしても、退職届に署名捺印したのであれば最終的な合意として扱う、そうしないと契約書等の信頼性が消失してしまい社会生活が回っていかなくなってしまうのでそういうルールになっているとしか言いようがありません。ただし、退職の申し出に対して受理した旨の通知が未了の場合や、懲戒解雇すると脅されて有効に懲戒解雇できると誤解したような場合は退職届の無効を認めた裁判例はあります。
3 弁護士に依頼すれば、辛い退職勧奨の対応を自分でしなくて済むようになります
この記事を読まれている方は、実感されていると思いますが、仮に会社側の担当者があからさまな侮辱などしておらずむしろ丁寧な言い方をできるだけ心がけていたとしても、退職勧奨を受けるということ自体が極めてつらい経験です。そして、そのことが退職勧奨をする会社側にとっては一番大きな武器です。
弁護士を依頼するのは誰にでも認められた権利です。そして、弁護士を立てたにもかかわらず、弁護士の頭越しで交渉してよいとすれば弁護士を依頼する意味がなくなってしまいます。弁護士がいるのに直接退職勧奨するのは態様次第ですが違法となる可能性が高いです。そのため、弁護士が今後の連絡は弁護士を通じて行うように求める旨の受任通知を発送すると、会社側からの退職勧奨は止み、直接自分で対応する必要はなくなります。
4 退職勧奨を拒否し続けた場合の会社側の出方(解雇、異動)を解説します。
会社は、退職勧奨する際に、社内にあなたに与える仕事はない、どうしても残る場合は、アルバイト等がやっているような仕事しかないと異動を示唆してきます。また、このままだと強制的な措置を取らざるを得ない、それはあなたの経歴にもよくないなどと解雇をちらつかせて退職勧奨してくる場合も珍しくないでしょう。
まず、異動は基本的に会社の裁量です。どのような仕事をさせるかは会社の裁量とされています。そもそも仕事は会社にとっても顧客の要望に応じて変化していくものなので、何の仕事をさせるかさせないかについては会社の裁量とされ違法となることは基本的にありません。ですので、不本意な仕事をさせられたとしてもそれを争うことは容易ではありません。もっとも、転勤については、家庭の事情(介護等)により無効となることもあります。
一方、解雇は基本的にはよほどの事情がない限り認められません。解雇は労働者の生活の基盤を強制的に奪うことですので、最終手段としてのみ認められます。あなたに仮にミスや成績不良があったとしても、ただちに解雇が有効となるわけではなく、改善指導を繰り返したか、他の業務への配置転換など解雇以外の手段がないか検討を尽くしたかなどが問われ、解雇回避の努力を尽くしていないとなれば不当解雇として無効(解雇時点まで遡って給料を支払ってくださいということになります。)となりますので、さほど心配はありません。
また、会社の経営上の理由による解雇は、労働者に落ち度がないのでより一層厳しく、解雇しなければ倒産が差し迫っているなどの緊急の事情がない限りは、原則として認められません。最近は経営不振というわけではなく会社の成長のための事業再編成としてのリストラが流行っています。経営不振を理由としないようなケースでも一切整理解雇が認められないというわけではありませんが、解雇の必要性や緊急性が低いため、かなり手厚い条件(数年単位の割増退職金を提示するなどですが、経営上の必要性・緊急性とのバランスで求められる水準は変化しますので一概に金額が決まっているわけではありません。)を付した希望退職を募るなど徹底した解雇回避措置を尽くした上でないと認められません。
給料を減額すると言ってくることもありますが、給料は契約の中核的な内容ですので、契約の一方当事者に過ぎない会社がそれを労働者に不利益に変更することは基本的に認められていません。
5 会社の予想される措置を踏まえて現実的な出口(あくまで今の会社にとどまるか、退職条件を交渉をした上で転職するか)を見据えてしっかり時間をかけて検討する必要があります。
先ほど述べたように、解雇はなかなか認められませんので、会社が解雇してくる可能性はそれほど高くなく仮に解雇を強行してきたとしても争えば無効となることがほとんどですので、状況次第ですが、さほど心配する必要はありません。
しかし、退職勧奨を受けたことに納得いかないからと言って、会社に残るのが正解かというと、そこは冷静になって考えるべきことです。会社が従業員にどのような仕事を与えるかは会社の裁量です。そのため、あなたが、社内に残っても当初描いていたようなキャリアを積むことはあまり期待しない方が現実的です。また、特に経営者層と日常的に顔を合わせるような中小企業だと、人間関係上かなりつらい状況が長期間続くことは覚悟すべきでしょう。
そのため、同程度か多少劣る程度の条件で転職先が見つかりそうなのであれば、退職条件(通常は就業規則で定められている退職金に上乗せするということになりますので、退職金の有無金額を確認しましょう。また、未払い残業代がないかも確認すべきでしょう。)をじっくり交渉して有利な条件を引き出した上で退職するというのが、ベストな対応となることが多く、多くのケースではそのような出口をおすすめしています。
一方で、退職すると収入が激減してしまうことが目に見えているというようなケースですと、今後の職業人生が辛いものになることを覚悟した上であっても残るという判断も間違いとは言えないでしょう。
いずれにしても、自分が転職した際に想定される収入等を見極めてから決断することが一番重要です。そして、自分の客観的な市場価値については市場の状況によっても左右されるので自己判断は誤りの素です。自分のキャリアの棚卸をした上で転職エージェントに相談するなどして、実際に転職活動をするなどして転職市場での価値を見極めることが大切です。そして、そのためには一定の時間が必要です。残るにしても残らないにしてもじっくり時間をかけて冷静に自分の市場価値を見極めた上で最終決断をすることが重要です。
6 有利な条件を引き出すための2つのポイント
よく聞く質問が、退職勧奨をどのような言い方で断ればよいでしょうか?というものです。そこで、交渉のポイントを2つ説明します。
交渉において何より重要なのは、どのような言い方をすればよいかみたいな小手先のいわば戦術の話ではなく、敵味方の利益状況を踏まえた戦略的な方針策定です。
では、退職勧奨とはどのような交渉なのでしょうか?まず、4で説明したように会社は例外的なケースを除いて、退職勧奨をする、閑職に異動をさせるといったいわば嫌がらせができるだけで強制的に追い出せるわけではありません。そのため、労働者が退職に応じてくれるまで給料を支払い続けなければなりません。交渉が長引けば長引くほどダメージが大きくなるという状況にあります。ですので、会社としてはとにかく早く辞めてほしいという状況にあります。
一方で、労働者の方は、転職して給料が大きく増えることはそれほど多くないでしょうから(そういう状況なら既に自分から辞めていることが多いでしょう。)、経済的には交渉が長引くことによるダメージはほとんどありません。もっとも心理的には退職勧奨を受けている職場にい続けるのは少なからずの負担があることは否定できません。
このような戦略的な状況において、労働者がとるべき戦略、つまり一つ目のポイントは
① 交渉を焦らない、時間を味方につけること
です。
会社からの嫌がらせの直撃をできる限りかわしながら、交渉を引き伸ばすことによって、会社のダメージを大きくして、譲歩を引き出すということになります。交渉が長引けば長引くほど会社は費用が膨らみ早期の交渉妥結を目指して焦りだす(≒譲歩する)ということを意識することが大切です。退職勧奨を受けて大変つらい状況だと思いますが、長引いてつらいのは会社側も一緒だということをしっかり認識して焦らないことが一番重要です。
なお、これは残るという方針の場合も基本的には同じです。仕事から干した状態で給料だけ延々と支払い続けることは会社にとってもマイナスしかありません。そのことは会社もわかっていることです。ケースバイケースですが、会社側もどこかであきらめて普通に働いてもらうかと方針転換してくるということは普通にあることです。
では、どうすればこの社員は簡単にはやめさせられない、これは時間がかかるから譲歩した条件提示するしかないと会社に思わせることができるでしょうか?もちろん、交渉を長引かせるということが一番重要なのですが、それ以外にどうすればよいのでしょうか?また、先ほど会社からの嫌がらせの直撃を受けるのを回避するのにはどうすればよいでしょうか?
それが二つ目のポイントで
② 自分で交渉しない(≒弁護士に依頼する)こと
です。
会社側が取れる最大の武器は、退職勧奨の面談をして強いストレスを与え、労働者の気持ちを折ることです。実感されていると思いますが、退職勧奨をしばしば人格を否定するような発言を伴いますし、たとえ担当者が言葉を選んであからさまな罵倒をしているわけでなかったとしても、辞めてほしいと言われていることそれ自体が会社の担当者がどんなに言葉を選んでいたとしても大変つらいものです。そして、冒頭で説明したように、弁護士を代理人として選任すれば、退職勧奨を受けるように言われることはなくなりますし、万一言われたとしても、弁護士に一任していますからで済み直撃を避けることができますので、一番の対策は弁護士を依頼することです。弁護士を選任されると、会社側は最大の武器を奪われた状況になり、取りうる方法が限定されますので、形勢は大きく労働者に有利に傾き、弁護士に委任した旨の通知が届いた後には会社側も譲歩を決断せざるを得なくなるということになります。また、会社側が応じなければ解雇をするなど様々な脅しをしてくるでしょうが、そのような脅しがどこまで現実的なのかは、労働法の実務と相場感覚(解雇の有効性は最終的には総合考慮なので、単に本に書いてある法律知識があるだけでは正確な判断はできず相場感覚が重要です。)を持っている労働事件を多数経験している弁護士が必要です。
このコラムの監修者

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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。
