セクハラに許容限度などない?

今年(平成28年)の1月15日号のセクハラ、パワハラの座談会で木下潮音先生生(経営法曹の有名弁護士)がL館事件(卑猥な言動等により停職30日等の処分を有効とした最高裁判例)について面白いことを言っていました。

「この事件の加害者は2人とも女性労働者に対して、いわゆる男女間の恋愛感情などがあってこのような言動をしたわけではありません。セクハラについては痴話げんかとか、要するに個人的な感情だということをいう方がいますけれども、それはやはり誤った見方だと思います。セクハラは女性差別であるということを明確に考えていただきたいと思います。」
セクハラにはいくつかパターンがありますが(痴話げんか的なものもあると思う)、差別とか蔑視といえるものについて受忍限度論的な考え方はなじまないのかもしれません。
この点に関し、わが国では嫌がらせ、人格攻撃という形で議論されていましたが、米国では、女性に対する差別だという枠組みで議論されていたようです。単なる個人的なトラブルではなく、女性全体に対する差別だという理解を前提にしているために、米国ではセクハラというのが大きく社会問題になったと言われています。木下先生の発言もそのような知識を前提にしたものと思われます。
弁護士が裁判を行う場合はもちろん社会運動を進めていく上で、どのような出来事があったのかが勿論一番大事なのですが、出来事をどのように評価するかも非常に重要だということを思い出しました。
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このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。