令和6年1月30日付で、土浦労基署が行った、症状固定により休業補償給付を不支給とした処分を取り消す、逆転勝利判決を当事務所の増田崇弁護士が東京高裁で獲得しました。

休業補償は従前の給料の8割とかなり手厚い補償がありますが、症状固定とされると、最大でも後遺障害等級は9級と低い等級認定をされるため、年金ではなく約1年分の一時金で打ち切られてしまうため、症状固定がされないかが重要な問題でした。

症状固定とは、症状が残っているが、これ以上治療しても改善の見込みがないという状態を指します。事故によるケガなどであれば、治療期間は長くても1年程度のことが多いです。一方で、うつ病の治療期間として5年を超えて長期療養後に治るとういことも珍しくありません。そのため、5年~10年休業補償給付を受けている人も珍しくありません。

前記のように、症状固定の前後で補償内容が大きくことなりますので、一般のケガと精神疾患で補償の手厚さがかなり違うという状況になっていました。そのため、精神疾患での症状固定をどのように判断すべきかをめぐっては、以前から3年程度での早期の打ち切りを目指す動きがありました。

本件は、症状固定後にうつ病ではなく、双極性障害であることが判明して、治療内容を変更した結果、パートではありますが就労可能となったという事案でした。うつ病の薬物治療は気分をハイにする(正確に言うと底上げするというイメージです。)もの、一方双極性障害の薬物治療は気分をハイにも落としもしないで安定させるものであり、方向性が全くことなります。そのため、双極性障害の患者に抗うつ薬を処方するとしばしば悪化します。また、実際に双極性障害の治療薬に治療内容を変更した結果劇的に改善していますので、これまでの治療が不十分であったことは明らかな事案でありある意味当然の結論です(それでも、地裁は症状固定を正当と判断してしまったのですが・・・)。

労基署は前記のように休業補償期間が長すぎるとして、早期に打ち切る動きを強めている中で(本件でも主治医に、回復の可能性があるなら説明しろ、できないなら症状固定と認めるようにと執拗に働きかけたようです。)症状固定の一般的な定義に忠実に判断した価値のある判決です。

通常のうつ病などの長期化事案にただちに援用できるかは微妙ですが、双極性障害に病名変更は平均で8年強という調査もあるくらいであり、精神疾患の治療と診断には長期化するのはやむを得ないという意味では、病名変更がない事案でも参考になる事例だと思います。

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。