厚生労働省が発表している平成24年度の認定状況の資料によりますと,

認定の理由として多かったのは次の順です。

  1. 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった 59件
  2. (ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた 55件
  3. 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした 51件

となります。

なお,私の経験では、嫌がらせ、いじめを主張する事案は多数あるのですが、そのほとんどは認められないか、上司とのトラブルと矮小化して評価されています。私が認定を獲得した事案でよくあるパターンは、次のようなものです。本人が異口同音に一番つらかったと述べる直接のきっかけは嫌がらせや理不尽な扱いを受けたということなのですが、その点は認定できないか、比較的軽微なトラブルに過ぎないとして大きな評価はされなかったが、実際は発症に至る直接的な原因ではない背景事情である長時間労働が大きな精神的な負担が生じていたなどとして救済されるというものです。

実際に嫌がらせ,いじめ,暴行を主張した事案はこれよりはるかに多く,その大半が上司とのトラブルとしてカウントされるか、全く評価されていないのではないかと思います。

 

次に,認定された事案の残業状況ですが,

認定件数475件の内

97件が20時間以下とされています。

また,20時間~40時間が25件

40時間~60時間が29件

60時間~80時間が32件

と80時間以下183件と認定件数の3割近く占めています。

 

労働時間別の認定率が発表されておらず,認定率については当然ながら80時間未満は相当低くなっているものと思われます。脳心臓疾患の場合は336件中60時間未満が0件,80時間未満が20件とされていることと比較すると,精神疾患の労災認定は労働時間以外の事情も柔軟に考慮されていることは間違いありません。

 

なお,この発表は労災を専門に取り扱っている弁護士の感覚とは若干齟齬がありますので,その点については,別途解説します。

※ 大分古い記事となっていますが、2019年にこの記事を改訂しましたが、基本的な認定状況に大きな変化はありません。なお、認定された労働時間別の認定率については、この記事を作成後、精神疾患の労災認定に関する通達の策定に関する検討会議の資料として情報が公開されていますので、別記事を参照ください。

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このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。