療養補償給付とは?
労災保険制度を利用すれば,治療費は全額労災保険から出ますので,自己負担は0になります(労災とは関係のない病気や怪我については(例えば、労災で交通事故の自宅療養中に風邪をひいて内科を受診したと言った場合)休業補償給付を受けている期間でも通常通り治療費を支払う必要があります。)。これを療養補償給付といいます。
労災と認められた場合の手続きは2パターンあります。
まず,一般の病院の場合は,窓口では全額自己負担して定期的に治療費の明細書(レセプト)を医療機関に記入してもらい,それをまとめて療養補償給付の請求書とともに、労基署に提出すると,労基署から立て替えた金額が振り込まれることになります。
一方,労災指定病院については,治療費の請求の手続き、つまり先ほど述べたレセプトをまとめて療養補償給付の請求書に所定事項を記入して労基署に提出するという一連の手続きを医療機関の方でやってくれます。一般の病院でやっているような一旦全額立替えるというも必要ありませんので、労災指定病院だと、手続きは大幅に楽なります。
過去に健康保険を使用して治療を受けていた場合でも、遡って療養補償給付の支給を受けられます
一般的に、精神疾患の労災の場合には、労災認定まで時間がかかりますし(例外として、建設現場などで労災事故により大怪我をして入院し、体の怪我だけでなく精神疾患も発症したような場合などですと、発症直後から療養補償給付が下りる場合もあります。)、労災の認定率は決して高くないため、通常の病気として健康保険を利用して、治療を受けることがほとんどです。その場合は、通常3割を窓口で支払って、加入している健康保険組合が7割負担していることになります。
過去に,健康保険で治療を受けた分についても,労災である以上,全額労災として治療費が支給されます。
その場合の手続きは、休業補償給付の労災の認定が降りた段階で,利用していた健康保険組合に連絡し,健康保険組合から支払ってもらっていた7割分の明細を作成してもらい、7割分の金額を健康保険組合に返還した上でその領収書をもらい過去のレセプト(治療費の明細)の写しと所定の請求書を添えて労基署に請求します。そうすると10割分が労基署から支給されるという流れになります。
なお、労災だということに気づかなかった場合や、労基署段階で労災認定が得られず労災認定まで長期間かかった事案ですと、治療を受けたのが何年も前ということがありますが、療養給付の時効は、健康保険組合に7割分を返還したときからですので、時効はほとんど気にする必要はありません。
労災や、健康保険の傷病手当金についてはこちらのページで詳しくご説明しています。
このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。