Q1 数年療養しましたが、病状は一進一退を繰り返しているという状況が続いていますが、突然症状固定と労働基準監督署から言われてしまいました。まだ、働ける状況でもないのに、休業補償が打ち切られてしまい、年金の対象にもならず困っていますが、どうすればよいでしょうか?
Q2 私は、そろそろ働きたいと思っていますので、症状固定自体は異論ありません。しかし、障碍者雇用で細々働こうという状況であり、年金だけの9級の391日分+50万円や12級の156日分の+20万円の一時金の補償では、私の受けた損害に全く見合いませんし、今後の生活が苦しくなってしまいます。どうすればよいでしょうか?
A1 症状固定について納得がいかない場合について
症状固定とは、これ以上治療を継続しても、回復しない状態です。
うつ病などの非器質性精神疾患(脳の損傷等によらない精神疾患のこと)は5年10年の療養の末に回復することもありますので、症状固定という概念とは病気の性質上馴染みにくいです。他方で、発症後1~2年までの間は、早期に回復する可能性が高いのですが、療養が長引くと、回復する可能性は徐々に乏しくなることも事実です。
この点、精神疾患の労災認定基準でも2年程度での症状固定を示唆する記載もあります。
しかしながら、厚生労働省の委託研究で、労災認定者の追跡調査を行っていますが、認定後数年経過しても(発症から申請と認定までそれぞれ半年から1年くらい経過するため、認定までは2年~3年経過していることが通例です。)、回復していく方がたくさんいることが明らかになっています。
主治医などと相談して、治療の必要性を訴えていくことが重要ですし、そもそも、打ち切られる前に治療の必要性と治癒の可能性を明記してもらうよう主治医に依頼しておくことが必要です。また、異議の申し立ては期限がありますので、速やかに行う必要があります。すぐにご相談ください。
※2023年11月追記≫ 2023年9月1日、認定基準が改正されました。
発症と症状固定について、新認定基準のポイントをまとめましたので、以下の記事も是非ご参照ください。
新認定基準の改正ポイントその①発症及び症状固定
A2 等級認定に納得がいかない場合について
精神疾患の後遺障害等級認定は、精神疾患の後遺障害に関する通達に定められています。通達によると、うつ病等の非器質性精神障は9級が上限になっていますので、年金が欲しいというご要望は現在の労災制度上無理なご相談です。実際の想定できる収入が発症する前の数分の1であったとしても、9級の補償しか受けられません。9級ですと年金の支給対象にはなりませんので、休業補償を打ち切られないことが重要です。
9級なら納得できるが、12級や14級では少なすぎるということであれば、対処方法はあります。後遺障害の等級認定は先ほどのリンクにある、後遺障害の具体的な症状や生活の支障の程度について、各項目ごとに細かく立証することで、挽回できる可能性は十分あります。異議申し立ては期限がありますので、異議申し立てをしたうえで、労基署の決定内容や、主治医の診断書の内容を確認し、追加の反論を行っていくこととなります。
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このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。