Q 業務委託契約など、雇用契約以外の名目で働いている場合に、労災保険が適用されるのでしょうか?

A 労災が適用されるかは、契約の名目ではなく、契約の実態で決まりますので、契約の内容が労働契約であれば、過去に労災保険に加入していなくても、労災は支給されます。

雇用契約か否かは、契約の名称ではなく、契約実態で決まります。

労災保険は従業員(パート・アルバイトを含む)を一人でも雇うのであれば,加入の義務があります。

労災保険法で加入が義務付けられている労働者とは、労働基準法上の労働者と同じ概念とされています。

そして,労働基準法上の労働者に当たるかどうかは,契約書の記載されている表題(例:業務委託契約書)その他の記載ではなく,労働実態がどのようなものであるかにより決まるとされています。

なぜなら、労働基準法は労働者を保護するために制定されたものです。単に契約書などに業務委託契約,請負契約,委任契約としただけで労働基準法等が適用されないとすれば,使用者としての義務を容易に免れることになり,労働法を制定し,労働者を保護した目的を達成できなくなってしまうからです。

 雇用契約か否かの判断基準は

では,労働者か否かはどのように判断されるかですが,これは以下にあげる要素を総合考慮して(一つでも要件が欠ければ労働者にならないという意味ではありません。)ということになります。総合考慮の仕方についてはケースバイケースですので,ある程度同種事件の実務経験を積んで相場観が分かっていないと的確な判断は難しいです。そのため、具体的な事案で労働者性が認められるかの判断は労働事件の経験が豊富で相場観に精通した弁護士にご相談されることをお勧めします。

もっとも、労働者性が争われて労働者でないとされることはそれ程多くはなく、特に(多数の発注者がいるわけではなく)特定の会社から専ら受注しており、(他の労働者を雇ったりすることなく)一人でやっていて、収入も月数十万円程度といった場合には、労働者の主張が認められることの方が多いです。

  1. 仕事の諾否の自由
  2. 業務に関する指揮命令の有無
  3. 本来業務以外の業務を指示されることがあるか
  4. 労務の範囲、性質(広汎性、専門性)
  5. 時間的場所的拘束の有無
  6. 労務の提供の代替性(交代や補助要員の使用)
  7. 給料の支払い方法(時給制や残業代の支給状況)
  8. 源泉徴収、社会保険の加入状況
  9. 機械器具の所有
  10. 経済的従属性(専属制)
  11. 報酬の生活保障的要素(固定給部分の有無、報酬額)

なお,会社は仮に業務委託契約であるとして労災保険に未加入であった場合には,発覚すると,労働基準監督署から過去分も含めて保険料を支払わされますが,勤務先が労災保険に未加入であるから労災保険の保険金がおりないということはありません。労働者への補償の内容は労災保険に未加入であっても、全く同様です(ちなみに、厚生年金の場合は、社会保険事務所に申し出れば加入要件を満たせば遡及加入もできますが、一定期間に限られており、一定期間より前は遡及加入できません。)。

任意加入という方法もあります

なお,名実共に自営業者であるという方でも,任意加入という制度で労災保険に加入することはできます。精神疾患は一番身近で働けない期間も長い病気ですので,保険が一番必要になるものですが,民間の保険では補償の対象にならないことが多いため,任意加入を検討すべきです。任意加入は要件が厳しく、簡単ではないのですが、近年雇用類似の方への補償を充実させようという観点から、加入対象を広げる方向で法改正が検討されています。任意加入制度については,こちらもご覧ください

*2023年11月加筆

特にフリーランスの働き方が広がった結果、2021年から対象業務が広がっています。従前は、従業員を雇用していない事業者が加入できるのは建設業くらいでしたが、運輸業やIT関係のエンジニアが対象となり、さらに2024年からは全職種が任意加入できるようになりました。

 

→労災申請・損害賠償請求をお考えの方はこちらもご覧ください

労災申請・損害賠償請求

 

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このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。