労災認定の際にポイントとなる、長時間労働を立証する方法

労災認定において、60時間以下しか残業時間が認められなかった事案については、労災の認定件数は2割ほどです。一方で60時間を超えれば約半数、80時間を超えれば約8割の事例で労災と認定されています。長時間労働がない事案でも労災と認定された案件は多数あり、最初から諦める必要は全くありませんが、長時間労働があれば飛躍的に認定率が高まるのは事実であり、長時間労働の存在を認定させるのは労災申請では極めて重要となります。

では、本題の長時間労働をどのように立証するかですが、基本的なテクニックは次の通りです。

一番理想的なのは、タイムカードなど、会社側も作成に関与している証拠

労働時間を立証する一番の方法はタイムカードや勤務日報,スケジュール表(上司などと共有されている場合)などです。これらの証拠は会社側も作成に関与しているものですし,毎日作成されるものですので,その信用性は一般的に非常に高いとされています。

タイムカードなどが無い場合の、証拠の信用性の高低

一方で,手帳に記載された労働時間のメモなどですと,会社が作成に関与し内容のチェックをしているわけではないですし,第三者が関与しているわけではないため、後から作成しようと思えばできます。そのため、メモなどの信用性は必ずしも高くないとされてしまいます。一方で、家族への今から帰る旨のメールなどであればその日や近接した日時に作成されたことは客観的に明らかですので、第三者が関わっていなくてもその信用性はある程度高くなります。

労働時間を立証しうる方法は、たくさんあります。

また,労働時間の把握のために作成された資料でなくとも,労働時間の立証はできます。

例えば,入退館記録,警備記録があります。最近は大企業などは入退館に際してカードを通すようになっており、いつ退出したかは記録されています。そこまでハイテクではなくても、毎日のように最後まで残っていたという場合であれば、最終退出者として警備記録にサインしたり、所持しているカードキーで施錠した記録が残っている場合もあります。

また、パソコンのログオン,ログオフの記録が残っていることもあります。パソコンはどのような作業をしたのか、操作の記録が残っていることがあります。ただし、この記録は膨大になるため、パソコンの使用状況次第ではありますが、概ね2~3か月で消滅してしまいますので、調査対象時期がかなり昔のことで、パソコンを継続して使用していた時には使えません。

電子メールの送信記録や受信記録(同期した時刻が記録されている場合)などです。電子メールの送信履歴はその時間まで仕事をしていたから送信したと考えるのが通常ですし、受信時間が手に入れば、パソコンを立ち上げて仕事をしていたと分かります。

スイカの履歴も非常に重要です。定期利用の場合は記録されていないという限界はありますが、直行直帰の場合や出張が多く定期券を購入していなかったような場合には非常に価値ある証拠となります。

さらに、グーグルマップなどのGPSの履歴も残っていれば、どこにいたかは一目瞭然であり、非常に役立ちます。

本人や家族,同僚の供述だけでは基本的に労働時間を認定してもらうのは,簡単ではありませんが,出張の記録や業務日報など労働時間は直接記載されていないが働き振りが分かる資料と相まって労働時間を認定してもらえることは珍しくありませんので,経験豊富な弁護士に相談してください。

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このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。