相談者は医療・福祉関係の資格を持ち、長年順調に働いてきました。

ところが、数年前に転職した転職先は代表者とその配偶者の気まぐれですべてが決まるという状態で、人が定着せず、次々退職するという職場でした。

相談者は、これまでどこの職場でも当然受けられていた引継ぎがほとんど受けられず戸惑うなど違和感はいろいろありましたが、入社した以上は精一杯頑張ろうと思っていたのですが、上司や同僚から無視されるということが繰り返され、時にはバカ等と罵倒されることまでありました。

相談者は、何とか今の職場で頑張ろうとしていたのですが、徐々に体調不良となりました。体調が悪い中必死の思いでパワハラの改善を申し出るなどしたのですが、「気にするな」と対応を拒絶されるなどしたため、とうとう出勤できなくなってしまいました。

相談者はパワハラにより、病気になったのであるから、補償をして欲しいと自ら交渉を申し入れたのですが、勤務先からは事実関係の一部は認めるが、相談者の働きぶりに問題があったのであり、必要な指導をしただけで、何ら問題がないという回答であり、話し合いは平行線になりました。また、勤務先は国保にしか加入していなかったため傷病手当金が受け取れず、相談者はすぐに経済的に厳しい状況となってしまいました。

その後、相談者は夫の知り合いの弁護士の紹介で、私のところに相談し、私が受任しました。

パワハラについては、証拠が本人の供述しかないし、長時間労働などがある事案でもないため、労災と認めさせるのは困難と判断しました。そこで、早期の和解でなにがしか解決金を獲得しようという方針で、勤務先の弁護士と交渉しました。ですが、相手方の態度は頑なで、全く譲歩がなく、交渉は暗礁に乗り上げてしまいました。また、相手方は2か月間の休職期間が満了したとして自然退職を主張してきました。

そうこうしているうちに、相談者の体調は徐々に回復し、主治医から就労可能との診断を受け、週1程度のアルバイトですが、資格を生かして、働くことができるようになりました。そこで、休職期間が2か月というのは短すぎて自然退職は無効である、また実際に働いている以上、就労も可能であるので給料を支払えという内容の労働審判を申し立てました。

そもそも、一般に休職期間とは3カ月から半年程度欠勤し、解雇は十分できる状態であるが、なお一定期間解雇を猶予するという制度です。したがって、休職期間が2か月であれば解雇権が発生するまでの3か月程度に加えて2か月の休職で半年程度は解雇できないと解するべきです。ところが、相手方は休み始めると直ちに休職とし、2か月で退職扱いしたのです。休職期間が相当程度長い(1年とか)であればともかく、ただちに休職扱いしてわずか2か月で退職扱いでは労働者の地位を守るための休職制度が逆に不利になてっしまい、法の趣旨に反するという主張を行いました。

裁判所も、あまりにも休職期間が短いという当方の主張に一定理解を示し、一般的な労働審判の解雇相当額の和解で決着がつきました。

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このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。