Q 私は先月解雇されてしまいました。会社の言っている解雇の理由は事実無根なことや些末なことばかりなので、納得がいきません。会社と裁判を含めて争うため弁護士に相談しているところですが、事業をしている知人から手伝ってくれと言われています。私としては時間もありますし、お金も欲しいので知人のところで働きたいと思っているのですが、裁判中に再就職したことが解雇の裁判に影響しないか心配ですので、アドバイスをお願いします。

A 解雇後の以下の解説で述べるようなリスクがありますので、リスクは理解しておいてほしいと思いますが、結論的には気にせず再就職やアルバイトをすることをお勧めしています。

解雇で請求できるものはこの2つです

解雇が無効となった場合に得られる金銭は、
①解雇されてから解決するまでの過去分の給料相当額
②復職 OR 退職に同意することにより将来的な給料が得られなくなることに対する補償としての解決金
の2つです。

再就職すると就労意思が喪失されていると認定している裁判例も少なくありません

給料は働いて労務提供しなければ発生しないのが原則です。解雇された場合は、労務提供はする準備はしているけれども会社が労務の受領を拒んでいる、労務の提供が実際になされないのは会社側に原因があるからこれまで通り給料が発生することになり、解雇が無効であれば過去分の給料を支払えと言えます。
一方、再就職している場合には、一般的には元の会社に戻る意思を失っていることが多いでしょう。そうすると、労務提供の準備は再就職した時点以降については行っていないという認定になります。そうすると、再就職するまでの給料は支払えといえますが、再就職した時点以降については給料が発生しないということになります。
また、②の復職や解決金についても、就労の意思を失っている以上給料が発生することはないのですから、解決金などを請求することはできなくなります。

就労の意思を失っていなければ再就職しても請求できます

もっとも、再就職していても、当座の生活費を稼ぐために働いているだけで、前の会社に戻る意思を失っていないということも当然あるでしょう。新日本建設運輸事件、東京高裁2020年1月30日は「解雇された労働者が、解雇後に生活の維持のため、他の就労先で就労すること自体は復職の意思と矛盾するとはいえず、不当解雇を主張して解雇の有効性を争っている労働者が解雇前と同水準以上の給与を得た事実をもって、解雇された就労先における就労の意思を喪失したと認めることはできない」と述べて、再就職しているから、会社に戻る意思がないとした会社側の主張を退けています。

会社に戻る意思を失っていないのだとちゃんと裁判所に説明できれば、給料が発生しなくなるというわけではありません。もっとも、会社に戻りたいと言い張ればよいということではなく、なぜ戻りたいのか裁判官を説得できなければ、復職意思がないと認定されてしまう恐れはあります。
具体的には復職意思があると認められるのは、次のようなケースです。正社員ではなく一時的で不安定な仕事としてアルバイトや契約社員ではたらいているにすぎないとか、再就職先は前の会社より給料がずっと低いので前の会社に戻れるのであれば戻りたいとか、自分のキャリアとかけ離れた仕事を当座の生活費のためにしているだけといった場合です。

もっとも、前記の新日本運輸事件は、そのような事案に限定されない(正社員として同等程度の収入を得ている)としているところです。

別の会社でもらった給料は一部充当されます

なお、復職意思を失っていなくても、給料の充当は4割の範囲でされてしまいます。

つまり、月給20万円の人が解雇されて、別の会社で月給18万円もらって働きながら裁判を戦い復職した場合は、元の会社の給料の4割部分の8万円は別の会社で働いて給料をもらっているので元の会社は支払い義務を免除され、解雇された労働者は別の会社で働いていた期間については12万円だけ請求できることになります。

結論として再就職することをお勧めしています

実際のところ、解雇された会社に本気で戻りたいという労働者はそれほど多いわけではありませんし、再就職したのも単に一時的な仕事として再就職したのではなく、前の会社に対して就労意思を失ったということが少なからずあるのは事実だと思います。

しかしながら、再就職先に働き続けるかは、再就職して実際に働いてみないと分からないことであり、どうするかは働いてから考えるというのはある意味当然のことでもあり、どうしても復職したいというほどではないとしても、復職なのか退職和解なのか、その点の考え方はグラデーションとしか言いようがない問題であり、迷っている際にとりあえず復職を前提とした請求をするのは問題ないと考えます。また、再就職した事実はあくまで会社側が主張立証すべき事実であり、こちらから話す義務があるわけではありません。そして、元の勤務先が再就職していることを立証するのは決して簡単ではありません。特に労働審判のような短期決戦で再就職していることを立証するのは通常不可能です。

また、仮にこの点で負けたとしても、前の会社と再就職先の会社と給料の二重取りができなくなるというだけのことで、損するわけではありません。

もちろん、再就職の事実がばれても、再就職するまでの無職であった期間の給料は普通に請求できます。

再就職していることがばれてしまえば裁判がほとんど徒労になるというリスクはあります。

しかし、働くということは、単に金銭を得るだけでなく、社会参加や自己実現の方法でもありますので、人間働いてお金を稼ぐというのがもっとも真っ当な生き方です。

そのため、私は裁判のために再就職について相談された場合、「どうぞ働いてください、ただし、リスクがあることは理解しておいてくださいね」と回答しています。

関連記事はこちら

会社と労働審判や裁判をすると再就職(転職)に不利になる?必要な期間は?

試用期間中の解雇(本採用拒否)をどう考えるべきか?

コロナが理由でも内定取り消しは原則違法で無効です

うつ病で思うように働けない。会社からの退職勧奨にはどう対応すべき?

勤務中のネット私的利用での解雇無効&給料仮払仮処分を獲得 

試用期間中の解雇で勝訴的和解

日本青年会議所の受動喫煙解雇労働審判で高額の和解

このコラムの監修者

  • 増田 崇弁護士
  • 増田崇法律事務所

    増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)

    2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。