Q 精神疾患の労災申請では,発症時期が重要だと聞きましたが,なぜでしょうか?
精神疾患の労災の業務上外の判断について厚生労働省が定めた認定基準では,発症前6ヶ月間の出来事が評価の対象と定められています。
まず、6か月と定めた理由は、通常ストレスを受けたとしても、人間の心身の自然な機能により、時間の経過により徐々に回復していくと考えられるからです。では、なぜ6か月間かは明確な根拠があるわけではなく、労災の認定基準を策定に際しての厚生労働省での会議でも、複数の精神科医がだいたい6か月くらいだよねと言ったという以上のものではないようです。
次に、発症前というのもポイントです。つまり、発症後の出来事とされてしまうと、基本的に考慮されないということになります。これは、精神疾患にり患している者は些細なことで、病状が悪化することはよくあることで、病気の自然経過の範囲である。そうすると、既に発症している以上、症状が悪化したのは主原因は(業務やその他でのストレスではなく)病気のせいであり、病気になったのは発症前について考慮すればよいので、発症後の出来事については考慮しなくてよいという考え方です(この発症後を原則として考慮しないという考え方には強い批判がありますが、その点については、下記の例外についてのリンクもご参照ください。)。
従って,発症前6ヶ月以内でない出来事,例えば,発症の10ヶ月前の出来事や発症後の出来事は労災申請ではいくらしっかりとした証拠があっても原則(6ヶ月以内でなくとも考慮される例外についてはこちら)として考慮されないのです。
そのため,発症時期が何時かは労災の申請にあたって、業務上生じたストレスの具体的な内容と並んで極めて重要となります。労災申請するに際しては、単にストレスとなった出来事を主張するだけでなく、いつ発症したのかについても、労基署からの照会にそなえて主治医と打ち合わせをしておくなど、準備を行うことが重要です。
また、本人の供述は出来事の認定に際しては使用者側が否定すると本人の供述だけで認められることは中々難しく、あまり強い証拠とは言えません。しかし、発症時期については、精神疾患は基本的には本人の心の中のことであるため、そもそも客観的な証拠に乏しいものであるため、本人の供述のみで発症時期として認められる可能性も十分あります(ただし、通院歴がある場合は初診日以後に発症日をずらすことは通常困難です。)。そのため、事前の準備が極めて重要です。
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このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。