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Q:仕事で強い心理的負荷があり、精神疾患を発症し休職中です。軽い不眠などは大きな出来事以前から存在していた場合、労災申請で言う「発症時期」はいつになるのでしょうか。
1年前に、長年世話になっていた上司が異動になり、新しい上司が異動してきたのですが、経験が浅く、とんちんかんな指示をして、私の仕事が増えるなどのことが度々ありました。上司から見ても担当分野では経験が上の私のことが疎ましいのか、あからさまに口論になったりするというほどではないのですが上司との関係もいまいちしっくりこない冷たい関係になっています。人間関係のストレスで不眠になり時々精神科に通院して、睡眠薬をもらっていました。もっとも、不眠以外の症状はなく、仕事も普通にこなせていたので、精神科医に通院しながら仕事は普通にしていました。ところが、3か月前に会社としても初めての経験となる仕事を担当することになり、100時間前後の残業をしました。その結果、1か月前から抑うつや集中力の低下などの症状がでるようになり、仕事が手につかないような状態となり先週から休職しました。最初の不眠等の症状が出た段階だと、大きなトラブルや極端な長時間労働があるわけではなく労災の基準を満たさないような気がします。労災の審査は発症直前半年と聞きますが、私の場合発症時期はいつになるのでしょうか?
A:軽い症状が出た段階ではなく、診断基準を満たす程度まで症状が悪化した段階が発症時期となります。
精神疾患は、診断基準を満たさない軽い症状から始まり、徐々に症状が悪化し、診断基準を満たすようになるという経過をたどりますが(急激に悪化する場合はこれに当てはまらないこともあります。)、労災の認定基準では「対象疾病の発病の有無、発症時期及び疾患名」はICD10の診断基準に基づいて行うと明示的に示していますので、軽い症状が出た段階ではなく、診断基準を満たす程度まで症状が悪化した段階が発症時期となります。
ご相談の場合、1年前の段階では不眠以外の症状はでていないのですから、うつ病などの診断基準は満たしません。一方で、1か月前の段階では、不眠に加えて抑うつや集中力の低下などがあり、社会生活上の大きな支障もでたとのことですので、その時期を発症時期と考えるべきです。
もっとも、実際の治療では必ずしもICD10などの診断基準に準拠するのではなく、最初に軽微な症状が開始した段階から病気として考える医師も少なくありません。診断基準を満たす前の症状も含めて病気の全体像を見るというのは治療をすすめていく上では合理的な考えと言えます。もっとも、労災の判断としてはあくまでICD10で考えるので、その点をしっかりと説明して、医師の協力を得られるように、労災の申請の準備段階で説明しておくというのが重要です。
なお、精神疾患の発症時期の診断は容易ではないし、過重労働が認められる場合には過重労働によって発症したと考えるのが合理的であるため、認定基準は「なお、強い心理的負荷と認められる出来事の前と後の両方に発病の兆候と理 解し得る言動があるものの、どの段階で診断基準を満たしたのかの特定が困難 な場合には、出来事の後に発病したものと取り扱う。 」としています。
また、この点については、長崎労基署事件(長崎地判平成27年3月2日)でも診断基準を満たしたときとする旨判示されています。
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このコラムの監修者
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増田崇法律事務所
増田 崇弁護士(第二東京弁護士会所属)
2010年に増田崇法律事務所を設立。労働事件の専門家の団体である労働弁護団や過労死弁護団等で研鑽を積み、時には講師等として労働事件の専門家を相手にして発表することもある。2019年の民事事件の新規受任事件に占める労働事件の割合は100%である。